MAD MAN MONTHLY REPORT

Vol.124 Amazon Prime Videoの広告戦略:リテールメディアとノンエンデミック市場の融合




<3月号の目次>

◎ Amazon Prime Videoの広告戦略:リテールメディアとノンエンデミック市場の融合

◎ 広告収益モデル「F.A.S.T.」テレビの不採算の現実

◎ 「DUPE」が変える新たな消費のエコシステム

◎ 【起点観測】AmazonのEC・AWS・広告は5年で何倍に?

◎ 【コラム】MAD MANが解説する日本でのニュース


Amazon Prime Videoの広告戦略:リテールメディアとノンエンデミック市場の融合

 

図1:リテール広告における「ノンエンデミック」の概念図

出所)翔泳社MarkeZine

 

テレビCMよりアマプラCM

2025年4月より、日本市場において「Amazon Prime Video」の番組コンテンツ内に広告(CM動画、以下「アマプラCM」)が挿入される。欧米では2024年からテスト導入が開始され、いよいよ日本にも導入されることとなった。

広告の非表示オプションは、月額390円(年間約5,000円)で提供される。仮に日本市場のプライム会員数を1,500万件と推定し、その1割が広告なしのプランに移行した場合、年間数十億円規模の収益増加が見込まれる。しかし、これは単なる収益の積み増し(収益源の多様化)にとどまるとは思えない。

ユーザの感想(「CMが煩わしい」「料金が高い」など)だけではなく、マーケター(事業主・広告主)の視点から、Amazonのプラットフォームがグローバル規模で展開するビジネスエコシステム全体に与える影響を考察しておこう。

マーケターや事業主の立場から見ると、広告出稿の選択肢として「テレビCMよりもアマプラCM」へのシフトは当然に発生しうる。これは、民放CMをキャンセルした広告予算の一部を試験的に移行するにとどまらない。

大手広告主だけでなく、従来テレビCMを活用できなかったスタートアップ企業や中小企業、地方企業にとっても、新たなデジタル広告チャネルが開かれることを意味する。デジタル配信により小規模セグメント向けCM出稿のハードルが下がり、オプトイン型の視聴データの精度は従来のテレビ放映の比ではない。

 

■ノンエンデミック広告市場の拡大

図1で紹介したIABが提唱する「ノンエンデミック市場」とは、既存の店内や自社Webサイトでは扱っていない商品市場領域への拡張を指す。アマプラCMの導入は、その典型例といえる。

これまでのCPGブランドの広告戦略は、主に「直接購入する消費者Aさん」に焦点を当てていた。しかし、その先には「消費者Aさんの別の側面A’さん」が存在する。「おむつを購入した人はビールを買う傾向がある」といったデータ活用の先には、「おむつを購入した人はクルマを購入する決済能力を持ち、同時に家族全員で保険に加入する傾向がある」といった、より広範な相関関係の活用が見えてくる。

おむつとビールの関係は店内(オンライン含む)に閉じていたが(エンデミック)、クルマや保険は小売り店舗の外部(ノンエンデミック)に属する。このように、広告配信の対象が従来の店舗内広告を超えて拡張されることで、リテールメディアの可能性はさらに広がる。

 

■すでに発生しているノンエンデミック市場の加速

2024年3月号 Vol.112では「WalmartVISIO買収で実現するリテールメディアの姿」、同年6月号 Vol.115では「日本未上陸のユニファイドコマースという概念」を通じて、「リテールメディアの場所はお茶の間・リビングへと拡張する」と紹介した。Amazon Prime Videoの広告導入は、この流れをさらに加速させる存在となる。

MAD MANレポートの概念である「紙芝居と飴玉」に例えると、Netflixや地上波テレビ局が「紙芝居」(番組コンテンツの魅力)による集客型収益モデルを構築するのに対し、Amazonは「飴玉」(物販や顧客との関係性構築)を基軸とした収益モデルである。

Amazonは、高い利益率と長期的な顧客関係の構築が可能であれば、紙芝居側の事業が赤字であっても、巨額の「呼び水投資」を実施できる資本力を持つ。その結果、プレミアムコンテンツを活用した大規模なリーチが可能となり、マーケターの広告予算を引き寄せられる。近年のリテールメディアの成長は、ビッグテック企業の兆円規模の投資によって支えられている。

 

■Amazonの「セラー市場」へのクルマ販売開放

エンドレス・アイル(無限の棚)による販売市場の拡大とノンエンデミック化の流れは、2024年12月号 Vol.121「Amazonのクルマ市場への投資開放」へとつながる。Amazonは、自社でクルマを仕入れて販売するのではなく、第三者ディーラー向けにマーケットプレイスの仕組みを提供し始めた。その第一弾として、Hyundai車の販売が開始されている(図2参照)。

 

図2:Amazonマーケットプレイス上におけるHyundai車の出店ページ(Google和訳)

出所)Amazon.com

 

単に「Amazonがクルマすらも売り始めたぞ」という話ではなく、リテール業界全体におけるセラー市場の拡張とその根底にある変化に着目したい。驚くべきことに、クルマもAmazonプラットフォームで販売できるシステムが完成しているのだ。この事例では、HyundaiのディーラーがAmazonを活用する「セラー」として機能している。

 

■セラー市場への投資とAmazonのGMV拡大

Amazonによるセラー市場への投資は、マーケットプレイス技術への先行投資や、フルフィルメント施設(セラーの荷受けから配送機能)への数十兆円規模の投資を指す。AmazonのEC事業およびリテールメディア事業の成長は、このセラー市場への事前投資によるものであり、その成果が徐々に顕在化しているに過ぎない(図3参照)。

 

図3: Amazonにおける直販事業とMarketplace事業の成長比較

出所)翔泳社MarkeZine

 

この基盤の上に、Amazon Prime Videoのプレミアム広告枠が提供され、Hyundaiディーラーが巨額の販促予算を投入する流れが生まれる。

さらに、クルマだけではなく、Amazonでは取り扱わないようなノンエンデミックな市場でクルマに付随する保険や金融などの巨大産業にも影響が及ぶことが予想される。これらの市場でシェアが1%でもシフトすれば、そのインパクトは計り知れない。

 

■プレミアム番組CMとセラー市場への販売ツール提供

Amazonのマーケットプレイスを単なる「幅広いリーチを持つECプラットフォーム」と解釈してはならない。それはあくまで水面上に見える部分に過ぎず、その下で力強く漕ぎ続ける推進力があってこそ、白鳥の美しさが際立つのだ。

 

図4:アマゾンの日本国内におけるFC(フルフィルメント・センター)の拠点リスト|2024618日時点

出所)アマゾンジャパンのFC拠点リストをもとに筆者作成

 

Amazonが水面下で推し進めていた巨大なインフラ投資(=強靭な鍋底)こそが、未来のアヒルであるスモールビジネス、スタートアップ、ローカル企業の成長を後押しする基盤となっている可能性がある。日本市場においても、Amazonは10年以上にわたって数十兆円規模の投資をおこない、セラー市場の推進力を高め続けてきた(図4参照)。

セラー市場の販売インフラが整備された今、次のステップはセラー向けの販促支援ツールの開発と提供だ。アマプラ広告は、こうした販促支援ツールの一貫だと考えてみよう。

たとえば、従来の店頭販売におけるチラシ広告では、大手リテーラーが有名タレントを起用し、広告のトップでブランドの認知度を高めていた。その下の広告枠には、リテーラーの棚で販売される商品ブランドが販促費を投じる構造である。アマプラは、この「有名タレント」としての役割を果たし、セラー企業の商品を際立たせる販促ツールとなる。

 

■販促ツール① プレミアムコンテンツ(スポーツ・映画)の放映権獲得

従来のテレビ局が制作するバラエティー、ニュース、ドラマなどの“ニッチ”なコンテンツ(例:日本の視聴者にしかわからない)ではなく、Amazonは言語や国境を越えて多くの人々が楽しめるコンテンツへシフトしている。この流れを支えるのが、AmazonやGoogle、Appleといった企業の巨額投資である。

特に注目したいのは、Amazonのスポーツコンテンツへの投資だ。米国の4大プロスポーツリーグ(NFL・NBA・MLB・NHL)をはじめ、MLSの放映権にも投資をおこなっており、NFLとNBAの放映権には年間約5,000億円(30億ドル)を継続的に投じている(図5参照)。

 

図5:米国プロスポーツにおける放映権投資の状況

出所)ChatGPT 4oを活用し筆者作成

 

さらに、Amazonは2022年に映画会社MGMを約1兆円(約84.5億ドル)で買収した。MGMは「007」や「ロッキー」シリーズを保有する老舗映画スタジオであり、あのライオンが登場するオープニングでお馴染みだ(図6参照)。

 

図6:Amazonが2022年に買収したMGM

出所)Amazon MGM Studio

 

こうした投資の背景には、視聴者を惹きつけるプレミアムコンテンツの確保により、アマプラ広告を含む広告プラットフォームの価値を高める狙いがある・・・

 

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