<11月号の目次>
◎ ペットフード D2C の顧客対応にその企業が目指している北極星が見えたという経験
◎ Cookie 同意ポップアップこそがお行儀確認の第一歩
◎ Meta のグローバル広告を受注する広告エージェンシーの心の内
◎「Apple の完全自律運転モデル」の記事からの考察:①見出しバブル
◎「Apple の完全自律運転モデル」の記事からの考察:②2一人称データの世界
■英語記事からみる「日本語翻訳の見出しバブル」に気付きたい
図1の「アップルが自動車開発を加速、完全自律運転モデル目指す」という見出し記事はBloomberg発のスクープで、英文のオリジナルが発刊された直後(約1時間後)に「要約版」としてBloomberg日本語版で公開された。
英文オリジナル報道の1時間後に日本語版のテキストが発刊決行という(超)時短は、さぞかしBloombergグローバル全体での「一斉スクープ」によるインプレッション獲得の準備があったはずだ。各国支部に「事前に」「On Your Mark(位置について)」の統一体制と、次の号砲に合わせて一斉に、とタイミングを計っている。
ところが、Bloomberg日本語版の内容は「ものすごい縮小要約版」であった。そうした要約版なのに「いざ、Bloombergが発信元の報道だ」とばかりに、「日本語版のコピペ版」、「さらなる日本語要約版」が日本の大手情報サイトにて掲載されて、広く行き渡った様子を拝見した。
そのおかげで、時差の関係で寝ているNYの筆者の元に、日本語版の要約記事に気づいたMAD MANレポート読者の方から記事を転送いただいて米国の情報を「日本語で」知る、というようなケースが増えてきている。
速報だけがありがたいわけではない。この1時間ほどで即時翻訳された日本語版の内容を眺めると、英語圏における「ライブ感」や「わさわさ感(肌で感じる)」の情報とは「ほど遠い」ことを感じる。
むしろ、日本市場向けに「製造・加工」された情報になって納品されていて、「整頓された要約」という名目で「かいつまみ(要約)」で伝えられている様子は、「早い方(速報)が価値がある」という認知バイアスに陥っている。速報は、惑わされる情報だらけと思っても良い。
■気になる記事は「深呼吸」して必ずオリジナル(出所)を辿る
自らが日本語の見出し情報だけをかき集めてしまっては、「フィルターバブル」ならぬ「見出し記事の追いかけっこバブル」に陥る。
もし、自分にとって気になる海外の情報ならば、Web上での翻訳ソフトを利用するだけで、ほんの数秒で「あさはかな見出し」を見るよりもはるかに深い理解として蓄積されるはずだ。
MAD MANとしては、おおげさな「ファクトチェック」のような示唆ではなく、読者自身が関心のある海外情報であれば、「もう少しだけ」他者の見識を見てみよう、という投げかけだ(気になることがあれば、筆者まで質問を投げかけるのもあり⇒ eda.sakaeda@bicp.jp)。
■図1の見出し記事の本意は「Appleの苦悩・多難」の部分
図1の見出しを見て「へぇー、ついにAppleも車のデバイスに進出か」「EV車業界がアツいな」「まだAppleの株価は伸びる余地がありそうだ」のような表層的な理解が生まれるのは想像の範疇だ。
それとは別の視点でMAD MANレポート読者と共有できる示唆として、「実はAppleがどうにもならずもがいている」「前途多難から抜け出せていない」「Appleもようやく重いデータ側にシフトを決意した」というような矛先がある。
もちろん、どの解釈が正しいとするものではない。「見出し」とやらには、偏りにつながる「意図・目的」があるのは既知の事実だ。この前提の上で、図1の記事を眺めることを本章の前編「①見出しバブル」として紹介する。
■あのBloombergの記事でさえ鵜呑みにしない
参考までに、図1の英文のオリジナル記事と日本語版の記事を併記してみた。
▼英文のオリジナル記事
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Apple Accelerates Work on Car Project, Aiming for Fully Autonomous Vehicle
2021年11月19日 Bloomberg
<小見出し>
・Company looks to refocus project on self-driving capabilities
・New car chief Kevin Lynch pushing for debut as early as 2025
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▼日本語版の要約記事
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アップルが自動車開発を加速、完全自律運転モデル目指す
2021年11月19日 Bloomberg
出所:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-11-18/R2S37VDWLU6O01
<小見出し>
・人間の介在を一切必要としない完全自律運転システムの開発に重点
・アップル株は取引時間中の最高値更新、時価総額で世界首位を奪還
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この小見出し部分の比較だけでも、英文オリジナルにて伝えようとしている内容は「欠落」している(※黄色部分)。さらに日本語版では、下線部分が「加筆」されている。
この「欠落」と「加筆」の操作は、「Bloombergジャパン」が日本の読者へ向けた「良かれ」とした計らいかもしれず、あるいは他の何かの意図かもしれず、少なくとも調整による違いが存在することは確かだ。
「英文オリジナル」の黄色部分について、本文では「Appleはまだまだ無知な自動車業界への事業化の考えを二転三転させていて、さらに2本両建てでぶらぶら迷っていた事業を今回『refocus』した(再度検討して1本に絞った)。」
「ただし、まだまだ転がりそうな気配がある。その背景として、Kevin Lynch氏(Apple Watch責任者:詳細は後述)が自動車業界をどこまで引っ張ることができるかが未知数だ。その結果は2025年よりも前に「転び方」が見えるだろう」としている。
これをBloomberg「日本語版」の小見出しにて「〜に重点」と見出しの体言止め(読者の結論を誘う)にすると、「何やら大きな事業へ動きだした」感を作り、さらにそれに続けて、「株価が最高値」「首位奪還」と表現してしまうと、Appleへの期待が膨らむ方向へワクワクさせる要約になっている。
以下、Bloombergのオリジナル全文訳を添えておくので、目を通すだけでも少し違った新たな目線が生まれるはずだ(②へ続く)。
《参考添付》Bloombergのオリジナル英文報道
全文訳(翻訳サービスの「DeepL」を使用した訳)を掲載したので、参考として目を通していただきたい(日本語では伝えられていない部分を筆者が黄色でハイライトしておいた)。
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アップル、完全な自律走行車を目指し、自動車プロジェクトの作業を加速
マーク・ガーマン
2021年11月18日 12:26 GMT-5 更新日: 2021年11月18日 12:38 GMT-5
出所:https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-11-18/apple-accelerates-work-on-car-aims-for-fully-autonomous-vehicle
・自動運転に特化したプロジェクトを目指します。
・新型車のチーフ、ケビン・リンチは、早ければ2025年のデビューを目指している
関係者によると、アップル社は電気自動車の開発を加速させており、完全な自動運転機能に焦点を絞ってプロジェクトを進めています。
この数年間、アップルの自動車チームは、2つの道を同時に並行模索してきました。
1つは、現在の多くの自動車と同じように、ステアリングと加速に特化した限定的な自動運転機能を備えたモデル、もう1つは、人間の介入を必要としない完全な自動運転機能を備えたモデルの開発です。
この取り組みの新しいリーダーであるApple Watchソフトウェアのエグゼクティブ、ケビン・リンチ氏のもと、エンジニアたちは現在、2番目の選択肢に集中する決定をしました。リンチ氏は、最初のバージョンから完全な自動運転システムを搭載した車の開発を推進しているとされます。
ブルームバーグがこのニュースを報じた後、アップルの株価は2.4%も上昇し、157.23ドルとなりました。
この変化は、2014年頃から戦略の変更や幹部の交代に耐えてきた「スペシャル・プロジェクト・グループ」または「プロジェクト・タイタン」と呼ばれる自動車の取り組みにとって、最新の変化と言えるでしょう。
9月には、前代表のダグ・フィールド氏が、3年間務めていましたが、フォード・モーターに移籍しました。アップルはリンチ氏を後任に指名するにあたり、自動車業界のベテランではない社内の幹部を起用しました。
自動運転車の実現に向けて、アップルは業界の聖杯を追い求めています。テック系や自動車大手は、自律走行車に何年も費やしてきましたが、自動運転機能はまだ実現していない状況です。
電気自動車のマーケットリーダーであるTesla Inc.でさえ、完全な自律走行車の提供はまだ何年も先のことでしょう。Alphabet Inc.の「Waymo」は、自律走行技術の開発に取り組んでいますが、離職者が相次いでいます。また、Uber Technologies Inc.は、昨年、自律走行部門の売却に合意しました。
アップルは社内で、自動運転車の発売を4年後にすることを目標としており、今年初めに一部のエンジニアが計画していた5年から7年のスケジュールよりも早くなっています。
しかし、この時期は流動的であり、2025年の目標達成は、自動運転システムを完成させることができるかどうかにかかっています。このスケジュールでは野心的な作業です。
もしアップル社が目標を達成できなければ、発売を遅らせるか、あるいは技術的に劣る車を最初に販売することになるかもしれません。
カリフォルニア州クパチーノに本社を置くアップル社の広報担当者は、コメントを控えました。
Canoo Lifestyle Vehicleのインテリア。出所:Canoo
アップルが理想とする自動車は、ハンドルやペダルがなく、内装もハンズオフ・ドライビングを中心にデザインされています。社内で検討されているのは、EV業界の新興企業であるカヌー社の「Lifestyle Vehicle」のようなインテリアです。この車では、リムジンのように乗客が車の側面に沿って座り、お互いに向き合うようになっています。
また、アップル社は、インフォテインメントシステム(iPadのような大型タッチスクリーン)を車内の中央に配置し、ユーザーが車内でインタラクティブに操作できるようなデザインも検討しています。
また、このクルマは、アップル社の既存のサービスやデバイスと密接に統合されます。アップル社は、標準的なステアリングホイールを搭載しないことを推し進めていますが、緊急時の引き継ぎモードを搭載することも検討しています。
最近、アップルはこの車の基礎となる自動運転システムの開発において、重要なマイルストーンに到達したと、事情に詳しい関係者が語っています。アップルは、第1世代のクルマに最終的に搭載する予定のプロセッサについて、コアワークの多くを完了したと考えています。
このチップは、Appleの自動車チームではなく、iPhone、iPad、Macのプロセッサを開発したAppleのシリコンエンジニアリンググループが設計しました。また、自動運転機能を実現するために、このチップ上で動作するソフトウェアの開発も行って・・・