<10月号の目次>◎「ジェネレーションα(アルファ)」は2022年で12歳◎ 医療産業の2強:「AWS for Health」対「Microsoft Cloud for Healthcare」◎ コラム:日本製スマート家電の「遅れ」の現場◎ D2CビジネスとD2Cブランドは別物◎ Macy’s のマンハッタン本店の赤看板をAmazonが乗っ取るオファーの深い意味
図1「Gen Alpha」(ジェネレーションアルファ)の特集を組んだ「Adage」印刷版の見開きの様子
日本市場にていよいよ始まるかと期待しつつ、2018年6月号 Vol. 43で紹介した、「ジェネレーションα(アルファ)」というカテゴリーがある。当時から今になっても、まだ日本ではわくわくする「感触」が沸かないものかと感じるので、MAD MANレポート読者に向けて再掲する。それほど遠くない未来(すぐ目の前)を先読みする事象がありそうだと筆者は考えている。
米国での現象として、図1は米Adage誌が2021年9月に「Gen Alphaジェン・アルファ」世代についてマーケティング上で見られるシフトを特集した事例だ。日本では、この世代を表す「アルファ」の視点がまだまだ馴染んでない様子なので、先取りのヒントになろう。
■「アルファ世代(Gen Alphaジェン・アルファ)」とは
わたしたち(読者と筆者)の生活が2020年を起点に「劇的変化」が起きたことは理解しているが、この変化はそれを受け継ぐ子どもたち(12歳以下の世代)の次元では、さらなるインパクトとして今後顕在化してくる(当の本人たちは気づかずとも)。
幼稚園や小学校の学校教育を担う現場の方には、「アルファ世代」とネーミングする以前から「当然の毎日の出来事」としてその世代に向き合っていることだろう。
さらに、政治の側面でも行動傾向の調査などにおいて「アルファ世代」のひとつ上の世代である「Z世代」を対象に取り上げて、政治的メッセージとして利用されている番組や書物(ジェネレーション・レフトなど)を日本で見受ける。
どうやら日本での議論は「Z世代」を軸にした話題が花咲いているように思える(これはこれで価値のある議論)。そこで、本章においては資本経済上での話題に移す意味で、そもそも「アルファ世代とは何歳の世代のことか」の基礎情報からプラス「アルファ」の思考をスタートしてみよう。
ここでは3つのポイントに絞って「アルファ世代」をカンタンにおさらいする。また、「Gen Alphaジェン・アルファ」と呼ぶよりも日本では「アルファ世代」という単語の方が今後浸透すると予想して、以下「アルファ世代」で表記を統一する。
1)「アルファ世代」の親世代は「ミレニアル世代(ジェネレーションY)」である(図2参照)
図2 各世代の年齢別に整理した2018年当時の図表(※赤字は2022年時点に換算した年齢
アルファ世代とは2010年以降に生まれ始めた現在の子どもたちを指す。Apple社の「iPad」の登場が2010年生まれなので、なんとも象徴的な年だ。
この世代は、世界でみると「毎週」280万人以上が生まれ、彼らが全員誕生する頃(2025年)には世界合計で20億人近くに達し、将来はベビーブーマーの総人口数を越えて、歴史上最大の世代となる。
2)顕著な特性は「教育」を兼ねたおもちゃデバイスでのつながり
図3 X・Y・Z世代の次を「αアルファ・βベータ・γガンマ」と提唱した
オーストラリアの社会アナリストMark McRindle氏の著書「Generation Alpha」
MAD MANレポートでは「重いデータ」側の例として「医療・金融・保険」を挙げているが、4つ目の項目として「教育」も挙げている。まさにアルファ世代は、この「教育(基本原理を知らせる)」分野の市場が大きく広がる。
■生まれて最初に手にするおもちゃは「教育デバイス」
アルファ世代は「おしゃぶりやガラガラ」から「スマホやタブレット端末」にシフトした世代だ。さらに、その「ポータブル」な「デジタルデバイス(=おもちゃ)」は、「マルチスクリーン(手のひらにいくつも同時に)」が標準になったネイティブ世代だ。
消費者(親と子どもたち)のブランドやコンテンツとの関わり方において、スマホやタブレットを含めた「おもちゃ(ブランド)」というデバイスが思想や考えの基準を「根本から」左右する入り口になっている。
親世代は(読者がミレニアル世代だとして)、家庭内における子どもの手元での「デバイス視聴時間」が増えていることを身近に感じながら、知育玩具・教育デバイスの向こう側で教室や保育園、社会インフラ(共通デバイス)の「市場」が形成され、広がっていることにも気づいておきたい(ブランド予算の後押し)。
子どもに対する「教育」の開始時期は今後もさらに早まり、幼児が保育施設で過ごす時間が増え、その教育デバイスやおもちゃでの教育効果が徐々に認められ、その投資をおこなう(受け入れる)教育施設に向かって入園者が集まる…ここまでは誰しも予想可能の未来だ。
■教育データが徐々に「重いデータ」として認知される
マーケティング上の大きな変化の1つとして、かつては教育機関にとって嫌われていた「無料(広告)スポンサー付きの教材・デバイス・システム」が、教育ビジネスのコミュニティでの受け入れの垣根が低くなり、採用価値が増すことが予想されることだ。今まで嫌われていた「軽いデータ」ビジネスが、何らかの重さを持ち始める幕開きのようなイメージだ。
国家レベルでも教育予算は伸び悩み、家計レベルでも教育費の膨らみには限界がある状況で、営利目的だけでなく、社会的(利他的)な意義を持つ企業(予算)が「教育・コミュニティ・子育て」の領域に参入する事例がすでに増えている。
ブランドによる教育玩具(デバイス・ツール)は、その教育へのニーズ(希望)への支援の手段としての期待が順に高まる。後述する「サステナビリティー」や「社会平等」などへの意識もスポンサー意図と比例して高まる背景が充満してきた。
■あなたはスマホ画面を1日あたり何時間見ているか
余談だが、MAD MANレポート読者自身の「スマホ画面視聴時間」は1日あたりどれくらいの長さか認識しているだろうか。
米国の8〜12歳の子どもたち(英語でtween)は、自己の娯楽目的で1日平均4時間44分※のスクリーンタイムを消費している(教育を受けている)。これが13〜18歳になると、平均7時間22分※に増大する。(※Generationalpha.com調べ)
さぞかし読者においては上記の平均時間(7.5時間)より少ないと予想する。(この自分のスマホのスクリーン視聴時間は、iPhoneユーザーならば「設定」>「Screen Time」の項目にて確認できる)
筆者が小学生の頃は、「テレビ」にはチャンネルが5つしかなく、リニア時間軸で放送される「限り有る」番組チャンネルを取り合いして見ていた。この頃とアルファ世代を比較するのは桁違いとしても、筆者から見ればアルファ世代は天文学的に莫大で多様でしかもグローバルなコンテンツを消費(消費というよりも教育)している状況だと感じている。
■小学校以降の教育現場
アルファ世代の教育現場である「学校」は、これまでの構造的で聴覚的な学習方法から、多彩で魅力的な視覚を重視した多様式(=Multimodalマルチモーダル:複数かつ同時な手法)が基準となり実践され、過去の教育現場とは切り替わった方式に(ますます)シフトする。
2020年に気づいた「リモート教育」の概念は、このマルチモーダルの路線への姿が顕在化しただけで、アルファ世代はさらにその「向こう側」の理想へすでに動いている。
その子どもの両親とは「ミレニアル世代(ジェネレーションY)」であり、彼ら自らが強化させた検索や情報能力を駆使して、自分の子ども(アルファ世代)により早い年齢でより多くのより正規の教育を受けさせたい需要は高まる。
参考までに、日本の大学進学率は2020年末で58.6%と前年比0.5%上昇の過去最高を示した。授業のオンライン化が進学率を後押ししたと一過性のものとは考えにくい。むしろ、アルファ世代に向けた習慣の結果がさらに後押しして高まると予想される(期待される)。これは全世界的な傾向のほんの一端だ。
■テクノロジー過多の弊害よりもその可能性を求める
幼少や未成年の「テクノロジー」の利用過多(ハマり過ぎ)により、睡眠不足、生活習慣の乱れのみならず、社会的に孤立したり、反社会的になったりするなどの影響は保護者や教育者に広く知られている。
ところが一方で、人との接続性をより高めてコミュニティを促進し、社会的・国際的スキルを身につけることができるデジタル・デバイス(おもちゃから教育ツールまで)には、「ハロー効果」がある。この効果に誘発されて、社会が「(ハマっても良いので)右にならえ」として標準化する力が大きい。
現在すでに米国では「STEM教育」※が重要視されている。
(※STEMは科学(science)、技術(technology)、工学(engineering)、数学(mathematics)の頭文字で理数系人材育成を2010年代半ばより米国の主要な教育政策として掲げている)
米国(や欧米)はこれらのSTEM分野の学位取得者を大幅に増加する計画だった。米国への留学や移民のVISAの取得にも、この分野の資格者は手厚く優遇(歓迎)される。この国政による「ひいき」の傾向が、さらに「幼少期からデジタルデバイスがネイティブ」の世代が増えることで加速していく。
今後の新親世代の関心は、単なる過去の成功ルート(例:東大に行かせるや甲子園を目指すなど)の枠ではない、「新たな社会価値」を基準にした収入や社会での環境が高まる方向に向けられる。
この「テクノロジー素養基準」の傾向は学校や机上での学術的な教育に留まらない。「人生で(ひととして)の実践的な」スキルや素養なども圧倒的に変化していく。「文化系・アート系」にもこの基準高度化が進む。参考例として、実際に米国でのVISA申請の得点審査に反映されている。
たとえば、人の「笑顔(=人との最初の関わり方)」ひとつとっても、旧来とは変化が生まれているのに気づく。リモート画面だけの環境なら、なおさら感じるところだ。あるいは事業判断の瞬間においても、リスクの評価(必要に応じて能動的なアプローチができるか)などの「コンピテンシー(人として高い成果に繋がる素養・行動特性)」の概念も変化していく。
■未来の「スポーツ」を例に考える
筆者イチオシの経済変化の予想として、「スポーツ」に対する経済変化を挙げる。「スポーツ」と称するカテゴリーやその競技概念の目標の設定や達成の価値観、「市場の大きさ」がアルファ世代では地殻変動する勢いがあり、すでに米国では動き始めている。
自分を「没頭させる」、自分の能力を「開花させる」のはどれかという自由選択が「旧来のスポーツ」に縛られることなく、さらにオンライン上で展開され、旧来スポーツからの離脱が増えると予想する。
具体的には、アルファ世代の自己が持ちうる若き身体能力を、単に物理的な旧来のスポーツ競技に向けたトレーニング(例:野球・テニス・ゴルフ)に投資して、競わせて成果を上げるプロセスに親世代(ミレニアルズ世代)の関心(応援)が徐々に薄れているはずだ。
一方でアルファ世代の子ども側にしても、親(ミレニアル世代)の応援したいというエゴや圧力だけでなく、本人も「eSports」「ゲーム」「映像タレント」を含むオンライン上での自己の特性能力の活性化のために、時間と人的資産を活かすことに関心が向く可能性は高い。
そう考えられる自然な流れとして、デジタル上での活動「市場(ゲーム市場やeSports市場、NFTアート市場など)」はすでに拡大中で、応援(投資)資金が集まり、さらなる後押しを受けて成長しているのが「今」だ。
仮に、ミレニアル親世代の10人に1人でも、旧来型でないオンライン上の新スポーツ教育の発想が(心身ともに)生まれれば、市場としては大きな変化として顕在化する。国内だけで考えても、旧来の野球やバスケットボールという競技の「枠」や、県大会や甲子園などの「枠」を越えた「世界」での市場が広がる。
さらなる具体的な例として(笑)、米MLBで大活躍の大谷選手でさえもが米国市場にとどまらず、その身体能力と考え方をスポーツやコトバや国境を越えた人材育成に向けた「アンバサダー」役となって、「世界のオオタニ」として自身の活動の領域を広げることすら考えうる(そのスポンサー市場も生まれよう)。
これらのスポーツ「選手」に限らず、映像番組の世界における「俳優」でさえも同様のことが言える。直近の例では、Netflix上で韓国ドラマの「イカゲーム」のコンテンツを経て「チョン・ホヨン(女優)」が大きく価値を持ったのは、韓国テレビ市場に閉じていただけでは成し得なかった。これはアルファ世代の可能性を予兆させてくれた。
3)ブランド企業の「アルファ世代」に対するアプローチの変化
先の筆者余談を例にして、アルファ世代が「見たことがない、知らない」世界の想像を膨らませてみよう。
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- レコードプレーヤー、VHS、ポケベル、伝統的な辞書(印刷だけでなく電子辞書を含め)、電話帳、ラジオ、DVDプレーヤー、目覚まし時計など
- 映像や写真に関連する「フィルム」を使うカメラを知らず、「現像」を経て写真が紙焼きである状態を知らない。活字原稿では締め切りの設定(印刷入稿)が存在するが、「締め切る」概念がない(いつでも撮影できる、変更できるという意識)。
- Phone(電話機)は電話局を通じた通話の送受信機ではない。「スマホ」とは写真を撮り、インターネット経由でニュースを摂取してビデオを録画・閲覧し、ゲームをリモート同士でおこなうツールであり、しかも「(電話を)切る」という動作がなく、「常時接続」で手のひらに存在する。
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- 財布や貨幣・紙幣の利用経験がなく、同様に使い捨てプラスチックの利用経験がない。筆記試験でのテスト参加すらも経験がなく、そして今後も発生しない。
(ぜひ、この事例の続きを読者案としてお待ちしています。)
その一方で、アルファ世代の幼少時代には「存在していないかった新たな職種・職業」に、おそらく6割以上が就く。これは現在の現象でも既知のことだが、アルファ世代ではさらに加速する。
たとえば、「サステナビリティ(持続可能性)」の概念や「社会的平等」「アクティビズム」などの課題すらも、「アルファ世代」は幼少の頃(=現在)から関心を持って教育を受けている。さらに、次の新しい概念の職種が6割以上は生まれるという流れが来るだろう。
■アルファ世代の動きを予測する大きなエネルギー
アルファ世代の行動の原理として、その変化(シフト)を構成するマグマの大きな要素は下記の2つだ。
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- ミレニアム世代である「親」の子どもに対する教育投資への価値観シフトと投資額が年々増大すること(限度があるにもかかわらず上昇させるベクトルがあること)
- 「デバイス経由」でアルファ世代に到達しようとするコンテンツ(啓発・洗脳・教育)の内容が年々多彩化すること
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当然ながらマーケターやブランドは、後者の②に向けたツール・おもちゃ・アプリケーション・学習機会・6Gを含めた「新しいつながり方」を通じて、なんとか前者①のミレニアム世代経由でアルファ世代に「リーチ」を作りたい、売上を上げたい、と現状では考えている。
■今の売上の延長ではないアルファ世代
消費者と企業がバーチャルでの関係を構築する行為や工程とは、ブランド企業側のインフラ全体を一掃してしまうことに通じる。まったく新しいつながり、エンゲージメントのカテゴリーを構築していくプロセスだ。
「アルファ(+ベータ、ガンマ、、)」という単語が「X-Y-Z」の並びから別レイヤーの並びになっているのも、そんな意味合いがある。
企業が結果を期待する時間軸は、気の遠くなるような20年先のことではなく、おおむね「今から3年先には顕在化」するスパンだ(アルファ世代が15歳になる頃)。
現在の行動の延長にあるデジタル化としてのDXではなく、アルファ世代=火星人※としての関係構築は、企業存続の「LTV」から考えても、準備を開始することは急務になる。(※未知の新しい価値観を持つ人類の例え)
■オフラインである物理的なモノや商品がなくなるわけではない
スクリーンデバイスの商品やアプリ、クラウド上でのサービス提供だけでなく、「デジタル上でのスクリーン偏重」の環境だからこそ、むしろ物理的な「モノ」への憧れや人気が上昇しているカテゴリーも存在する。
オンライン・オフラインと区別するのではなく、物理的な商品であっても「メンタル(こころ)」の要素が大きい点は注意して見ておきたい。その意味からも「教育」というデータの存在が大きく、物理的な商品やサービスの消費を大きく左右するトリガーになる。
「教育」という価値が増大する理由は「こころ・人を動かす」という生命に連動する分野のデータ、産業だからだ。これは「医療」の分野に限りなく近い。
生命に近い分野だからといって「高価なデータ」として収集することに目がくらんでは本末転倒になる。生命に対して何を提供しようとするのか、アルファ世代の人々から受け取る姿勢こそが最初の起点だ。あなたの企業が「アルファ世代から課金できる銭儲けをしたいのか」と問われれば、どう答えるか(コタエを持っているだろうか)。
■アルファ世代向けのブランド事例
すでに日本でも取り組んでいる事例もある。アルファ世代という冠を使っていないだけで、実は若年層向けマーケティングとして進行している分析や考え方が存在している。さらに各産業別にも多数存在するはずだ(例:自動車・飲料・ファッションなど)。
MAD MANレポート読者が理解しておきたいのは、米国や各国でのアルファ世代の先進事例とは、「少しだけ日の目を見た」ブランド企業側の自己主張やPR記事情報に過ぎないことを再確認しておくことだ(釈迦に説法)。これらは模範解答でもない途中経過としての共有だ。
その途中経過を把握したうえで、それらの「事例&事例&事例」を理解するよりも、物理的な商品やサービスができあがったプロセスでの「プラスの考え方(背景にあるディストリビューションとしての繋がり方)」や「プラスの行動(背景の製品開発や工場・販売のプロセス)」のエネルギーを想像し、自社の次の行動を考えてみたい。
考察する事例として、あえて「オンライン特化サービス」の事例ではなく、「アナログ商品」の事例を選択した。これらは、Adageにて企業対策PRとして紹介されていたアルファ世代向けの事例だ。華々しい「デジタルデバイスやアプリ、クラウドを使って」という説明からは遠い、アナログでベタな事例を並べてみた。
むしろこのようなアクティビティこそが、大企業として取り得る「その向こう側」の行動や最初の一歩のヒントになるはずだと・・・
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