◎ 旧来の概念である都心のオフィスは一旦精算に踏み切れるか
コラム:ニューヨーク在住の筆者から ~未来へ過去への正直な気持ち~
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◎「動画ビジネス」の経済動向① AT&TのCEO辞任とサブスクライバーの急激減少
◎「動画ビジネス」の経済動向② Netflixのサブスクライバーの伸びと、目に見えぬ未来のコスト上昇
「動画ビジネス」の経済動向① AT&TのCEO辞任とサブスクライバーの急激減少
図1:AT&Tのテレビ回線契約者が2020年第1四半期で90万件減少と報じられる
出所:https://www.adexchanger.com/
外出自粛によってテレビやオンライン動画の視聴時間が長くなったのは実感するところだが、家こもりを起点とする「動画ビジネス」としての経済インパクトは上向きなのだろうか。それとも下向きなのだろうか。
現在人々の視聴時間が伸びているからと言って、「放映による広告収益」「視聴サブスクライバー数や月額収益」「コンテンツの再販の収益」が上昇しているのだろうか。結論として現在は答えが見えないが、おのずと見えている部分を悲観的に報道する風潮がある。結論は「サブスクの月額利用価格」が20%〜以上引き上がることで釣り合う。現在はコンテンツ提供社側の持ち出し超過で、現金の制作費(Out)と収入(In)がバランスしていない。このコンテンツの価値を提供する企業は、上がり下がりはあれど顧客との繋がりを大事にできる。さらに「接客」を売り物にするサービスならば、40%程のプレミアム価格もあり得る。人と人との接点に対する変化が生まれると「保険料として」「安全代として」上乗せしてでも受けたいサービスの登場はあり得るだろう。
■AT&Tのテレビサブスクはどのような状況か
図1は、AT&Tのテレビ回線契約者が2020年第1四半期で90万件の解約があったという速報だ。AT&Tのテレビ回線契約数は、2016年の買収によって回線数を増やした「DirecTV」、そしてAT&T独自回線で展開していた「U-verse」、さらにDirecTVから派生したOTTサブスクの「AT&T TV(旧DirecTV Now)」の3種類あり、これらの合計で2018年末には約2,520万世帯あった。この状況が2019年末には2,040万世帯に減少しており、ここからさらに図1の速報のように2020年Q1も90万件減少となると、ついに2,000万世帯を切って1,900万世帯になるという事だ。
図2:AT&Tのテレビ回線契約数2018年末と2019年末の比較
出所:https://www.leichtmanresearch.com/
図2は2019年1年間の「ケーブルTV&衛星TV回線の契約者の減少数」で、全米での減少数が407万人に対して、AT&TのTV回線契約者減少がそれを上回る477万人である。他社数字を省いた表にしてあるので、他の事業要因は測れないが、全米の回線減の「大きく足を引っ張る」のがAT&Tの回線者数だと思ってしまうほどだ。
■問題回帰の予兆が現実にAT&TのCEO辞任
2020年3月にAT&Tのプログラマティック広告販売のユニット「Xandr」のブライアン・レッサーCEOが辞任している。レッサー氏はWPPのプログラマティック広告取引部門の「Xaxis」をCEOとして立ち上げた人物であり、AT&TのAppNexusの買収を成立させた「プログラマティック広告取引」の業界第一人者であった。CCPA/GDPRに代表される、個人IDデータを使ったターゲティング広告に逆風が吹いている折での辞任は、何やらTV広告取引形態が「雲行きの怪しさ」を予兆していた。
そして2020年4月、大きなテレビ・動画界隈のニュースとして、AT&Tのランドール・スティーブンソン最高経営責任者(CEO)が7月1日付で退任すると発表された。後任にはCOOであるジョン・スタンキー氏が繰り上がる。スティーブンソン氏といえば、13年間、電話回線インフラ企業だったAT&Tを巨大メディア企業へと変貌させた張本人である。
スティーブンソン氏は2007年からの13年間の任期中に、2014年には衛星放送の「DirecTV」の買収を約4兆9200億円で行い、2016年にはテレビコンテンツ企業のTime Warnerを約9兆4,000億円の買収、さらに2018年にアドテク配信の「App Nexusを約1,800億円で買収し、社内に広告管理の「Xandr」ユニットを立ち上げた。「テレビ屋」への変身に向けて、足掛け約15兆円の投資である。2019年にはClyptも100億円程で買収したが、これはスタンキー氏派閥の決断とされている。
実は「テレビが儲かるのか」という経済的な理詰め分析だけではない背景もある。トランプ政権が非難の対象としている「CNN」局はTime Warnerの傘下にあり、現在はAT&Tの傘下である。スティーブンソン氏(とAT&T)は、トランプ政権下での5Gを始めとした通信関係において、アドバイザリーとしてのお声がけはこれまで非常に少なかった。今回のAT&Tのトップの交代は、AT&Tによる政治の「ワシントンDC」圏内での「巻き返し」を図る意味が見える。
図3: ランドール・スティーブンソンによるAT&T退任を喜ぶトランプ大統領のツイート
■あのT-mobileを率いた有名(元)CEOも役員から退任
今や余談程度かもしれないが、T-Mobileの躍進を率いていた破天荒キャラのジョン・レジャー元CEOは2020年4月1日付けで予定通りCEOを辞任し、役員として残っていたが役員辞任の予定の6月4日を繰り上げてT-Mobileを去る発表を出した。
この出来事を機に、今後どの業界も「責任辞職」のようなタイプのCEO辞職が相次ぐと予想される。特にモバイル・キャリア業界にいたっては先取りしており、Verizonにハンス・ベストバーグ氏が2018年に新CEOとして交代以来、これで上位企業の旧経営陣が一掃されたイメージがある。Verizonが「GO 90」の動画ビジネスを停止させ、YahooやOathを切り離してから、「通信回線屋専業への回帰」が見えてきていた。
AT&TやVerizon、そしてT-MobileがCEOを入れ替えて、どうやら回線インフラのビジネスに回帰するモードをMAD MANレポートとしては読み取っている。この回線インフラへの回帰について報じている日本のニュースはあまり聞かない。難しいパズルの組み合わせだが、マーケティング業界においては・・・
続きはMAD MANレポートVol.65にて
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