◎ 忘れてはいけない経済の第二波(1)米国の失業申請数と破産可能性の企業群<br>
◎ 忘れ去られた経済の第二波(2)すでにデフォルトを起こしている国々とジブンとの関係の考え方<br>
◎ TV業界から察する、短期の出稿特需と長期の制作未来<br>
(1) CM出稿特需を予期していた米国テレビ局の先行投資<br>
(2) 米企業「The Trading Desk」が見せる新DSPのうまさ<br>
(3) 先の見えぬ映像制作現場の復活とは。「以前」に戻す事か「未踏」に踏み出す事か
TV業界から察する、短期の出稿特需と長期の制作未来
(1)CM出稿特需を予期していた米国テレビ局の先行投資
米国のTV広告業界では、2020年は「TVアップフロント」という広告営業の販売祭りが無いまま、さらにはオリンピック特需も無いままに、2020年のテレビシーズンを迎えてしまった。
毎年4月から5月に行われていた、テレビコンテンツの丸1年分の広告収入を決定づけるTVアップフロントの販売期間は、各チャンネル・テレビ局における大黒柱の営業活動だったが、2020年はこのイベントが一切開催できなくなった。
こうして4大ネットワーク・テレビ局(ABC・CBS・FOX・NBC)やケーブルチャンネル局、そしてオンライン・チャンネル局(OTT)は、大黒柱であるはずのTVアップフロントで獲得するはずだった広告扱いが得られないまま経営に突入している。さらにその上にTV広告出稿のオーダーが一旦中止・延期となり、まさに「その日暮らし」の運営になってしまったのが2020年4月だった。
アップフロントというTV広告枠の販売方式は、日本には馴染みがないが日本でいう番組提供(タイム)枠に置き換えて例えられる。さながら9月からの新番組CM枠は、新番組が決まらないのだからタイム枠スポンサーも決まるはずがない。
ところが5月には外出自粛の特需もあり、この状況が現在はスポット買い(フリンジ枠買いや都度一部枠買い)として復活する傾向がある。これも一時的な傾向として捉えてよいだろう。無いよりはありがたいが、トレンドとしてとらえる程の事ではない。日本に紹介したいのは、米国のテレビ局は「こんな時の受け入れ枠」としてあらかじめ出資しており、用意されていた事である。
■テレビ局が投資してテレビCMをテレビ局経由で買い付けない傾向へ
欧米で特別発生しているのは「アップフロントがなくてもOTT枠でいいじゃん」という広告主側のお気軽なTVCM枠の買い付けが増えていることだ。
テレビ電波経由で流れるCM枠や、ケーブルTV配信経由で流れるCM枠に広告を出稿せずとも、今やOTTの広告枠としてテレビコンテンツCMを「壁掛け50インチのテレビ受像機」に向けて配信できてしまう。広告主がDSP経由(※(2)章で後述)にて「とりあえず」と予算を振り分ける傾向が生まれた。これはネット配信のOTT枠のCM買い付けであるので、機動的に「都度買い」や「ストップ」が調整可能であり、現在の非常事態には好都合な手法だ。
日本で例えれば「TVer」上の各局のコンテンツに株式会社フリークアウトのDSP経由で入稿可能になったような状況に、ついでに日本のFOD(フジテレビオンデマンド)にも、日テレ資本のHuluにも同時に簡単に配信計画が出来て、CM送稿できるようなプラットフォームがいくつも登場したイメージだろうか。
日本のOTTによるテレビ局の同時放映に関してはNHKと民放の足並み揃えなどの調整が足かせになっているようだが、米国ではすでにテレビ局が電波放映用に制作したコンテンツに対してOTT(ネット)で出稿されることで、テレビ局にとっては願ったりの副業収入になっている。なぜならOTT側が放映して儲けた広告収入に対して、一定のフィーがテレビ局側に収益として戻されるからだ。
この流れはテレビ局側が自社で制作したコンテンツに対する売上単価の引き上げやリーチ獲得のためには、今や自社が利権を持つ放送電波経由だけにこだわるべきでないという意向がある。同じく電波を広く用途開放して収益を上げたい政府側にも同調する意向である。
前オバマ政権では電波は保守的であり利権を守る方向だった。当時の「Net Neutrality」という考え方が今は存在しない事にお気づきだろうか。現トランプ政権になってからは、連邦通信委員会(Federal Communications Commission:FCC)の同調とともに、電波に対する平等な開放に向けて開きは始めたのは確かだ。放送局が電波利権にしがみつくだけでなく、通信も踏まえて競争関係・共存関係を築きなさいという考え方である。
こういった背景もあり直近の4月〜5月には広告主側も「ブランド毀損が発生する可能性はあるが、電波放送による枠だけにこだわらず容易にリーチが取れそうなOTT枠をDSP経由で入れて機動的な実験としても今試しておこう」という調子である。
■日本ではまだ見慣れないOTT経由のテレビチャンネルとは
MAD MANレポートにて何度か紹介しているが、米国ではこれらのテレビ局が制作した番組コンテンツを、OTT(ネット)※経由で配信するサービスが現れている。
視聴者にしてみれば「あたかも月額1万円以上のケーブルTVを契約しているかのような」多チャンネルの視聴環境が、ネット経由のおかげで月額4,000円で観れる「vMVPD」が多数発生している。これらのvMVPD事業者はいわゆるケーブルTV回線のコードカッターとして登場した配信業者だ。
さらに昨年から起きている米国での異変は、このvMVPD※が月額サブスク(SVOD※)ではなく「アプリをダウンロードして登録すれば無料で即観れる」という、広告収益に依存した事業モデル(AVOD※)が多数登場した事だ。収入が低い世帯にとっては「夢のような」格安チャンネルである(広告が挿入される事が引き換えであるのは横において)。
※略語用語解説
・OTT:Over The Topの略であり、テレビ画面の上を行くという意。インターネット回線を通じて動画コンテンツ提供する「通信回線経由の事業者以外の企業」
・vMVPD:Virtual Multichannel Video Programming Distributorの略。
元のMVPDは100チャンネル以上もの番組チャンネルを束ねて(Multichannel Video P rogramming)、自社の放送施設とケーブル回線や衛星電波経由でテレビ受像機に番組を配信するサ ービス(Distributors)を現していた。これOTTを(オンライン)経由で行う事業者をVirtualを付けてvMVPDと呼ぶ。
・SVOD:Subscription Video-On-Demand 定額制動画配信
・AVOD:Ad-Supported Video-On-Demand 広告付き無料動画配信
■すでに数百億円でAVODチャンネルを買収している4大テレビ局
優良なコンテンツを増産していた4大ネットワークテレビ局にとって、AVODの存在は「副収入」が湧いてきてくれた存在である。コードカッターが増えたことで広告収入が減っている中、数十億円という微笑ましい副収入の登場であった。
微笑ましいと称するのは、AVODはNetflixとは違い自社でオリジナル・コンテンツを作らずに束ねるだけであり・・・
続きはMAD MANレポートVol.66にて
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