◎ WalmartのDNVBトライ&エラーの裏の仕込み
◎ ポスト「サードパーティCookie」で何がどうなる。MAD MAN流の解釈
◎ Alphabet発表のYouTubeの「売上高」<コンテンツ事業の収益未来>
◎「広告」という収益構造が1本のFacebook
◎ Amazon「広告」事業は広告収入にあらず
◎「映像コンテンツ」を立ち上げ収益化させる事業柱とは(永遠の課題)
◎ NetflixのP/L未計上のコンテンツ投資とキャッシュフロー
◎ テレビ局コングロマリットViacom/CBS局の収益構造は
◎ メディア・コングロマリットComcast/NBCUの経営は好調か
◎ 参考:日本のテレビ局の収益構造と成長度合い
Alphabet発表のYouTubeの「売上高」<コンテンツ事業の収益未来>
図1:Alphabetが公表した収益のサマリーとYouTubeの「売上高」
YouTubeの「年間売上高」はいったい幾らなのか。そして単体では儲かっているのだろうか。 この謎がとうとう2020年1月にAlphabet/Googleの2019年決算発表時にYouTubeの売上高を初公開され、大きく報道された。2019年のAlphabet/Googleの定義でのYouTube事業単体の売上高は約1.6兆円(150億ドル)であった。
2017年 8,965億円(81.5億ドル)
2018年 1兆2,270億円(111.6億ドル) 前年比37%UP
2019年 1兆6,660億円(151.5億ドル) 前年比36%UP
「王者YouTube」の事業が世界で1.6兆円と聞いても驚くに至らないか、ピンとこない数字だったのではないだろうか。ちなみにNetflixは世界で2.2兆円(200億ドル)をはじき出しているのも頭の片隅にあるだろう。「さぞかし兆円規模だろうな」とは想像できただろうし、もし「YouTube事業での売上が1.6兆円」がピンとこなかったとすれば、これを公表したAlphabet/Google社の意図のまんま(思う壺)だったかもしれない。
考えてみたいのはYouTubeのグローバルでの映像事業=年間1.6兆円売上高が、そんなに驚くに値しないのはなぜだろうか。仮に数字が大きすぎてピンとこないことが理由ならば、MAD MAN流解釈にてAlphabetの公表意図を紐解いて腹落ちさせてみよう。ヒントとしてFacebook・Instagram・Amazon・Netflixそしてテレビ局ネットワークのViacom/CBSやComcast/NBCUの財務状況と共に「収益の柱」を探してみる。日本のテレビ局5局の営業の柱も実感してもらうべく巻末に添えた。
■なぜAlphabetはYouTubeの売上高や、さらに「利益高」を公表しないのか
米国でエッジの効いた人々の間でまことしやかに話されているのが、YouTubeという事業は「永遠に黒字儲けに転じられない」という予測である。もちろん根拠は不明だ。グローバルにテクノロジーを一つに牛耳る事ができたGoogle様(YouTube様)でも成立しない何かがある。
「オンラインビデオコンテンツ」事業の市場は、すでにYouTubeの双璧として「Netflix」の事業モデルが存在している。広告収入を持たないサブスクモデルを中心にグローバル・プレイヤーとして世界1.5億人の有料ユーザーにまで成長した。
さらにその分野には天下のAppleが「Apple+」、Disneyが「Hulu」や「Disney+」でこの市場に参入し、その前からAmazonがPrimeメンバーを募り集めさらに大御所ジェフリー・カッツエンバーグ(元DreamWorks AnimationのCEOでWalt Disney StudiosのChairman)とメグ・ウィットマン(元HPのCEO)が2020年4月に「Quibi」(広告収入+サブスク)を立ち上げる過剰とも言える大資本の過密状況だ。
図2:モバイル画面特化型の「Quibi」発表の模様
出所:https://www.mobileworldlive.com
YouTubeは2006年のGoogleによる買収によって、人々の目につく媒体に成長し、広告ターゲティング技術と共に投稿者(YouTuber等)の利潤分配のエコノミーを作った。それまでの「ビデオ・コンテンツ」の流通が「放映電波」の利権に縛られていた市場からオンラインで事業化させた先駆けで模範であり、天下を取ったとも言える。しかしながらこの14年間「売上高(扱い高)」とその利益を一切公表せず、そして今回の発表も「売上高」だけの発表である。公表したくない「何かがある」と考えるのは、Alphabet側やマーケット側も一致している。
今回のAlphabet/GoogleによるYouTubeの売上高だけの発表は、YouTubeのオンラインコンテンツの事業において、依然と「広告収入」の軸だけ、あるいは「サブスク収入」は少しだけという「1.5軸」のモデルではペイせず、「限界」と「懸念」をますます浮き彫りにした。Alphabetでさえが未だに儲けられないオンラインビデオコンテンツ事業やその市場とは何か、と逆引きで思考する方が速いだろう。
YouTubeにおけるビジネスの現状は、Alphabet/Googleの体質として「広告」という1本足の収益軸に良かれ悪かれ特化していること。別軸として自社が制作コストのリスクを取って、コンテンツ資産を育成させたり築いたりする(サブスク、コンテンツ課金)ビジネスにはひたすら興味を示さなかった。これがGoogleなりの論理である。
■映像コンテンツ事業の柱は「広告+サブスク課金」に加え、「コンテンツ資産の外販」
YouTubeにおけるこの「広告収入の限界現象」は実は世界的な現象が見えており、各国におけるオンライン映像コンテンツ事業主も同様の課題をすでに持っている(例:日本であればAmeba TV等)。さらにCMを始めとしたブランド企業の映像コンテンツの未来のあり方も予兆しているので興味深い。
ビデオ+広告収入では世界的にスケール化しても、単体事業主(YouTube)の未来がまだ見えないのだ。
この状況をメディア報道ではAlphabetの苦悩をかんがみてあまり強調していない。次ページは今回のAlphabetがYouTubeの事業公表を報じている「日本語」の記事である。筆者も購読している「Business Insider (US edition)」や「The Information(US)」という米国でも「デジタル」「マーケティング」の事情に詳しいパブリッシャーでさえが、なんとものん気な報道を出してしまっている。
さらにそのコピペ報道が日本のマスコミやSNSサイトを通じて出回ってしまった。この雲に巻くような、だらだらとした「ビジネスの核心を覆い隠す」公表こそがAlphabet/Googleの今回の発表の意図だとすれば、むしろお見事だった。
図4:「The Information」が作成したYouTubeと全米テレビネットワーク各局との広告収入での比較
出所:https://www.theinformation.com
図4に掲載した「The Information」は、「YouTubeの広告収入は、ABC・NBC・Foxの放送ネットワーク3社の広告収入を合わせたものよりも多くの収入を稼ぎ出している」と紹介している。
この取り上げ方は、YouTubeの見逃しがちな数字を放置して評価している部分がある(そして大半のメディアが同様に見逃してこれらの記事をコピーしている)。YouTubeとGoogle/Alphabetが財務報告で定義する「YouTube ads」の「Revenue」の中には、コンテンツ掲載者(YouTuberたち)と折半する広告収入配分が含まれている。誰しもが知るYouTubeの会計システムだ。
動画投稿者とYouTubeで、およそ「6対4」で配分されると言われる。仮にYouTube側を少し多く見積もっても1.6兆円のうちの半分以上(55%程)は、コンテンツ側が持っていく「取扱高」であって、YouTubeの懐に入るのは45%程の7,000億円程だ。興味深いのは皮肉にも・・・
続きはMAD MANレポートVol.63にて
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