◎ 再考:法規制と収益よりも胸に手を当てる事が優先できるか
◎ ひとりの個人に立ち戻って便利と不便を体感してみる実験
自分のスマホから位置情報をシャットアウトしてみる
◎ CESの壇上で行われた「プライバシー」についてのディスカッションと行間
◎ 日本のインターネット広告費は伸びているか
◎「Google-Cookieショック」は単なるイントロ
CESの壇上で行われた「プライバシー」についてのディスカッションと行間
図1:CESでの「Chief Privacy Officer Roundtable: What Do Consumers Want?」の一場面
出所:https://live.ces.tech Facebookから代表で登壇したオフィサーは明らかに肩に力が入っていた。
この模様は動画が公開されているので、直近のビジネス英語学習素材としても有効だ。ラスベガスの会場にて聞き取るより日本語育ちの人にはより理解しやすいだろう。
■Apple社から久しぶりにCESへの登壇を了承した「意味あり」のセッション
このCESの「Chief Privacy Officer Roundtable: What Do Consumers Want?」のセッションにAppleのプライバシー・オフィサーが登壇した事は、日本の大手新聞社を筆頭とした速報サイトでもお馴染みだろう。このセッションにおいてMAD MAN読者の記憶に残っている事が「Facebookの発言に失笑した」的な報道どおりなら表面的過ぎるし、「Appleのオフィサーは個人的にFacebookへの攻撃は避けたよね」とか「Appleってやっぱり個人データを守っているよね」であってもイメージや印象だけが先行している。もう少し深めるためのキーワードと視点を紹介する。
図2:CESにて「消費者は何をのぞんでいるのか」をテーマに登壇したChief Privacy Officer達
左から男性モデレーター・Facebook・Apple・P&G・連邦取引委員会(日本の公正取引委員会に相当)ゲストは偶然にも全て女性だった。
この2020年のCESのこのスペシャルセッションにて、記憶にとどめておきたい結論を復習しておくと
・「Data Minimization Principle」
データのミニマイゼーション。必要最小限のデータのみを保持する概念
・「Privacy By Design」
プライバシー保護を事業起案デザインの段階から、第一に置く概念
・「Consumer Control+Consumer Choice+Protection」
データの管理は企業側ではなく消費者側が持つ、そして選択肢を持ち、保護する概念
・(偶然か必然か)プライバシー・オフィサーの登壇者が全員女性であった点
このあたりは記憶にとどめておきたい。
■<参考>登壇セッションを聞く時の準備
こういった登壇者のセッションでは、米国では必ずプロフィールを紐解く。その手段として「Linkedin」は必ず確認した上でセッションに臨む。下記ではそのプロフィールリンクと、エッセンスを紹介しておく。登壇左側から順に、
名前:Erin Egan
所属:Facebook
役職:VP、Public Policy and Chief Privacy
経歴:Facebook歴8年、前職はPrivacy/Data Securityの法律事務所で15年。
大学卒業後、ロースクールに在籍(+3年 法務博士)
https://www.linkedin.com/in/erin-egan-01329878/
名前:Jane Horvath
所属:Apple
役職:Senior Director、Global Privacy
経歴:Apple歴8年、前職はGoogleでPrivacy4年、その前は米国政府の司法省でChief Privacy Officer。
大学卒業後のロースクール卒(+3年 法務博士)
今回のセッションで「Privacy by Design」を数度唱えていた。
https://www.linkedin.com/in/jane-horvath-aa3a0b5/
名前:Susan Shook
所属:P&G
役職:Global Privacy Officer
経歴:24年間生え抜き、本社勤務のPrivacy Officer。
大学卒業後、ロースクールに在籍(+3年 法務博士)
https://www.linkedin.com/in/susan-shook-57ab0a12/
名前:Rebecca Slaughter
所属:FTC(Federal Trade Commission)
役職:Commissioner
経歴:FTC歴2年、前職はNY州大物上院議員管理チームのトップ、
政府系弁護士、大学卒業後ロースクールに在籍(+3年 法務博士)
https://www.ftc.gov/about-ftc/biographies/rebecca-...
全て登壇者は「4大卒+3年ロースクール」を卒業した法務博士号を持つ、バリバリの法務執行オフィサーである。
その上でさらにCESが用意した「ひな壇」には実は格差がある。互いの登壇者もそれを承知で、本社からの指示で登壇した事情を鑑みてあげる必要もあろう。上記の経歴では、AppleとFTCの人物は「圧倒的な二強」である。華を添えているのが天下のP&Gからの生え抜き社員オフィサーであり、Facebookの登壇者は、実はFacebook組織のために登壇をさせられ、筆者目線ではかわいそうな弱者の立場に見えていた。
逆にいえばこのひな壇の設定でも無い限り、Appleが「プライバシー」のテーマでトップのオフィサーを派遣してヨシとする稟議は通らないものである。
■Appleのオフィサーが述べた単語
・ドライバーズシートで車を運転するように、人々がデータをコントロールできるように
・Privacy By Design
・Data Minimization Principle
・Consumer Control+Consumer Choice+Protection
■Facebookのオフィサーが述べた単語
・Surveillance Capitalism
→ハーヴァード・ビジネス・スクール名誉教授のショシャナ・ズボフは最新の著書で「監視資本主義」という概念を提唱し、その世界の危険性を説いている。
参考:https://www.amazon.com/Age-Surveillance-Capitalism...
参考:https://wired.jp/2019/08/04/the-age-of-surveillanc...
・Transparent
■P&Gのオフィサーが述べた言葉
・位置情報が有用であるというスタンス
→前章で紹介した、New York Timesが報じた「One nation tracked」。
位置情報が匿名というのは完璧な嘘だとする(Paul Ohm, a law professor and privacy researcher at the Georgetown University Law Centerの見解)
・Microsoftの社員がAmazonに行っていた
・二時間枠でモーテルに何度も行く人
・FBIが精神病院
・浮気の追求等
などは、素人でも見抜けるほどの整合性を作れるのが位置情報データ。
“Really precise, longitudinal geolocation information is absolutely impossible to anonymize.”
しかしP&Gのオフィサーは上記に同意しなかった。言い分としては、P&Gの位置情報はマスレベルの利用であり、もちろん大きな枠の郵便番号(Zip Code)区分程度以上には細分化せず、いつどの場所の多湿の地域にはヘアケア商品を増やすまたは減らすという調整を行う。コモディティのCPGは、社会に対するコンプライアンスができてないとすぐに他商品にスイッチする権利が消費者側にあるから、最大限に気を使う。消費者がこれまでP&Gを選んでくれているのは、そのコンプライアンスが認められている証と述べている。
・Beyond the legal「Trust」こそが彼らの行動規範、ファンダメンタル
■FTCのオフィサーが述べた言葉
・様々なデータの中でもセンシティブ(重い)データと、そんなにセンシティブじゃない(軽い)データと存在する。ロケーションデータは重い方だ。プライバシーという観点だけでなくセキュリティーという見地でも守らねばならない。匿名化するなどの個人の特定を防ぐ配慮は大事であり、守れる可能性があれば大事な作業ではあるが、実は全部バラす事が出来てしまうのがロケーションデータの現状。
・ドメスティックバイオレンスを防いだり、コネクテッドホームで嫌がらせを行う夫(被害者のライトを強めたり、設定温度を上げたり 等)から身を護る事も大事なのだが、その用途に限られるかどうか。
上記のFTCのオフィサーに対しAppleのオフィサーが述べた言葉
・ロケーションデータこそデータの・・・
続きはMAD MANレポートVol.62にて
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