<2月号の目次>
◎ Facebook・Instagramも欧州撤退の可能性
◎ コラム:プラットフォームでの告知は個別のお手紙の後に
◎ Amazonと組んだBNPLの「Affirm」の光を見る
◎ Appleの「Tap to Pay」とビットコインと
◎【起点観測】Google/Alphabetの事業構造は変化したか
◎【起点観測】外出機運はAmazonのECの減速とは別物-AWSが加速するその先を見る
■Facebook・Instagramが欧州から撤退する可能性
Zホールディングス傘下のヤフーは22年2月1日に、英国と欧州経済地域(EEA)で大半のサービスの提供を4月6日以降に中止すると発表した(図1参照)。
図1:ヤフーの欧州向けのサービス(日本語版)の提供中止のアナウンス
続いて米国時間2月3日のMeta(Facebook)社による米国IRSへの「10-K年次報告」(図2参照)には、Facebook・Instagramなどのサービスを欧州エリアから撤退する可能性が示された。
図2:2022年2月に米国IRSにファイリングされたMetaの財務報告書(全134ページのP36の該当部分)
- 参考:「フェイスブックとインスタの欧州撤退を警告-米メタ、データ規制巡り」2022年2月7日 Bloomberg日本
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- 参考:SECの要約版の記事「Meta threatens to pull Facebook and Instagram from Europe if it can't share data with the US」 2022年2月6日 IT wire, (翻訳ソフトで十分に読みやすい英文)
日本では、この状況への理解が「厳しい方向に動いているのだな」とか「フェイスブックが無くても生活に支障はない」程度で慣れてしまっているのではないか。この動きは事業経営に「新たな」且つ大きなマグニチュードを与え、「明日の」リアルを含んでいる。これらによる揺れや高い波が来ることには気づいて咀嚼しておきたい。
この欧州発の情報を参考に、MAD MAN読者がアンテナを挙げてマグニチュード度合いを理解するための一助として、「四角四面のたとえ話」を下記に例えてみた:
- AWSのグローバルクラウドから世界に番組を配信しているNetflixは、今後、「イカゲーム(Squid Game)」のような世界発信のコンテンツの視聴動向を、米国ロサンゼルスのNetflix本社で集計・分析できない(=大きな制限が発生する)。
- 日本法人である武田薬品は約5兆円で買収した英国シャイアー社との医薬データを日本本社で交換できない。あるいはソフトバンクがNvidiaへの売却を諦めた英国ARM社と再開させる新技術の開発において、ソフトバンク技術チームとARM社はデータ交換ができない(=大きな制限が発生する)。
というような状況へと進む道の入口に入ったことを、Meta社が先発で自白してくれたのだ。
■待ったなし「データの越境移転の禁止」
これまでMAD MANでのデータに関する警鐘は、主に企業&企業&個人におけるミクロ単位での「データ保有コスト」のマイナスリスクについてだった。
それらは攻め側の「利活用」だけでなく、守り側のDSR(Data Subject Request)を始めとする消費者保護の見地から企業自身のデータに対する向き合い方(あり方=それで良いのですか)を問うアンテナの引き上げだった。
今回のMeta社の自白発表で本格化した動きは、さらにマクロの次元のものであり、「データの(欧州からの)越境移転の禁止」である。2018年5月に立案されたGDPRの文面の中にも「EUの外への個人データの転送の禁止」については触れられていたが、施行から4年を経た今、その「実働」が始まったのだ(中国政府は「何をいまごろ」と笑っている話題だ)。
日本においては、冒頭のZホールディングス(ヤフージャパン)と、Meta(Facebook・Instagram)の2つの発表を日本でのわかりやすい例として、この時点で次のDDS(で、どう、する)を考えておきたい。
この流れは必ずGAFAMへと「連鎖」が発生する(AmazonのAWSにも、MicrosoftのAzureにも…)。さらに、目立つ米国企業だけにとどまらず、日本企業、日本政府にも大いなる影響が待っている。今回の動きはちょっとしたマイルストーンであり、指標を先取りする意味合いのある出来事だ。
ザッカーバーグCEOが率いるMetaは、欧州発の世界動向の「やおもて=矢面」に立たされている覚悟の上で、今や自ら先出しする姿勢で発表した。だんだんと先回りすることに慣れてきた感さえある。このMetaが発表した「欧州の矢面(先出し)」を発端として、今後はGAFAMの連動がマグマとなり、全世界の企業に波が及ぶ。
深呼吸して押さえておきたいのは、Meta社1社のニュースとして片付けてしまっては、アブナイ側の理解で終わる。これは全ての米国企業や日本企業を含め、世界の企業のスタンダードが動き始めたという予兆として、「待ったなし」だと考えておこう。Metaの米国IRS(国)宛の報告書は「僕がわるい訳じゃないんだよ、なんとか守ってよ。」と、あらかじめ国に対して予防線を張ったような意味合いがある。
■<補足>似て非なる次元の理解・ヤフージャパンとMetaの理由の違い
参考までに、ヤフージャパンの撤退理由は、DSR※1の目線を含んだ「データ保有コスト」が「事業の割に合わない」という点が大きい(Metaの発表と比べて一歩手前の次元)。Zホールディングスという日本企業がデータの利活用で欧州事業の利益を目論んだとしても、実入りの割に対応すべきコストの方が高くなる可能性が大きいという判断だ。
(※1:Data Subject Request:データの主体である個人が、企業が保有するデータに対して開示請求ができる権利)
言い換えれば、Metaよりもひと昔前の判断を、ようやく「日本で初めて」おこなった事例とも言える※2。
(※2:これまでMAD MANで指摘してきた企業姿勢としての「のぞき見データ」における商売上の売上よりも、「データ主体」の個人様が希望される場合は最大限対応いたします、という「姿勢コスト」のほうが今後高くつくとソロバン上で気づいた判断だ。たとえば、DSRの1件の問い合わせ対応コストがシステム構築を含めて10万円かかるとすれば、1,000万件のデータあたり1万件の問い合わせがきた場合10億円のコストが発生する、というような計算で事業継続を断念した、という発表である。)
このZホールディングスのDSR対応に対して、Metaの発表が大きいとするのは、「越境データ移転」という(先取りの)国家間のやり取りに膨らむ次元だからだ。2つのアナウンスが偶然同じ欧州発というところで「同じ原因(ルーツ)」と考えても良いのだが、マグマの度合いで見ると、さらに大きい部分が動き出したという視点はご紹介しておく。
Metaが米国IRSに申告した撤退の可能性とは、「欧州側の規則」が「データ越境の活用」を欧州を越えてグローバルで一斉に待ったをかけていることにある。これも個人の権利保護の延長の一つなのだが、「国家(連邦州)間」での単一企業を越えたマクロ次元での調整ごとが発生する。
日本のDFFT構想(Data Free Flow with Trust)はすでに二昔前の概念になってしまった。この構想は「自由で開かれたデータ流通」、プラス(ついでに)データの安全・安心の確保に向けた政策だ。
この次元やセリフは、欧州の5年以上前の雰囲気だ。この法規に慣れてしまった日本企業は日本政府(の古い法規制)に責任転嫁する企業姿勢にならぬよう、自社独自の北極星に向けたDDSを気をつけておきたい。
以下は図1に掲載したMeta社のSECへの申請(10-K年次報告書)の原文とその翻訳(DeepLを利用した筆者訳)を添える。
Meta Platforms, Inc. Form 10-K (2021年の年次報告書)のP36部分
"We believe a final decision in this inquiry may issue as early as the first half of 2022. If a new transatlantic data transfer framework is not adopted and we are unable to continue to rely on SCCs or rely upon other alternative means of data transfers from Europe to the United States, we will likely be unable to offer a number of our most significant products and services, including Facebook and Instagram, in Europe, which would materially and adversely affect our business, financial condition, and results of operations."
「この調査の最終決定は、早くも2022年前半に発行される可能性があると考えています。新しい大西洋横断データ転送のフレームワークが採用されず、当社がSCCに依存し続けるか、欧州から米国へのデータ転送の他の代替手段に頼ることができない場合、当社はFacebookやInstagramを含む当社の最も重要な製品やサービスの多くを欧州で提供できなくなると考えられ、当社の事業、財務状況、業績に重大かつ悪影響を与える可能性があります。」
このMetaの年次アナウンスをFacebook/Metaの単体企業で捉えず、MicrosoftやAmazon、Appleらがどう考え、次に動く先を考えておくのはお得なことだ。この章はアンテナをあげるところまでとして、MAD MANレポートの追跡シリーズで続けていく・・・