<5月号の目次>
◎ 経済の反動は「平準化」するか、それとも「予兆」と捉えるか
◎ 日本企業が聞きたくない「海外M&Aが下手」な、たった1つの理由
◎ コラム:外食産業にチップを渡そう
◎ DNVBの次世代版「Amazonネイティブブランド」のM&Aによるエコシステム
◎ 追記:日本市場におけるAmazonセラーのM&A市場
DNVBの次世代版「Amazonネイティブブランド」のM&Aによるエコシステム
図1 Amazonにおけるサードパーティセラー(出店者)の売上構成比
AmazonのECサイト内でサードパーティセラーが占める売上比率は6割を超える。赤線は50%ライン。2010年頃からサードパーティによる売上増加がAmazon ECの増大エネルギーに転換している様子が見える。Amazon全体のGMV(流通取引総額)は約50兆円強(4,900億ドル)規模なので、サードパーティ市場は約30兆円規模と推測できる。
出所:https://www.marketplacepulse.com/
■本章の要約として
「Digitally Native Vertical Brand(DNVB)」への注目が一段落しているが、さらに裾野を広げ「Amazonネイティブブランド」の企業群への注目と、市場が広がっている(図1・図2)。DNVBとAmazonネイティブブランドとの違いは何か。
DNVBを投資によって囲おうとしていたWalmart程度では、とうてい真似ができない経済圏が自然発生している。ECでの売上や利益の増強よりも「事業の資産価値」の増大が鍵となる。
あたかも株式市場におけるM&A市場のごとく、Amazonのウォールドガーデン内部で新企業に資金が集まり始めている。さらに、Amazonネイティブブランド企業のM&A市場が膨らみ、M&Aによるエグジットが「簡略フォーマット化」されて多数発生しやすくなる循環を生んでいる。
オンライン(EC)上におけるマーケティング実務のノウハウの提供やサービスの報酬は、都度のフィーを課金請求するよりも、「事業価値を上昇」させて未来から報酬を得る方向へシフトしはじめた。
たとえば、Amazonプラットフォーム上での「儲けのノウハウ」を持つならば、エージェンシーとして受託フィーで稼ぐ「安定型」モデルよりも、事業のキャピタルゲインを増大化させて収益とする「リスク共有型」モデルの方が大きい成長が遂げられる。報酬を支払うためのキャッシュ資金が少ないスモールビジネス(Amazonネイティブブランド側)にとっても好都合である。
単にAmazon事業のM&Aが偶然生まれたのではなく、この市場にGoldman Sachs出身者のような「投資&買収」「資本政策&資金調達」に長けた事業会社やグループが目をつけて参入した結果だ(火付け役の存在)。
日本のAmazon経済圏は世界上位(Amazon内部では4位)の市場であるので、気づかざる市場ではなく、「もうすでに動いている市場」(BUYMAのような単なる転売屋市場ではない経済圏)の事例も紹介する。
章の終わりに、Thrasio社によるAmazonセラー買収の「簡易的な企業価値算定(バリュエーション方程式)」を公開する。
図2 サードパーティセラーを「Amazonネイティブブランド」として紹介するMarketplace Pulse
AmazonのECサイト内での売上の約6割はサードパーティセラー事業が占める(図1)。このAmazon EC事業内のセラービジネス(スモールビジネス・スタートアップ)がM&Aによる買収を専業事業として成長している。
出所:https://www.marketplacepulse.com/
■すでに日経でも報じるAmazonセラー事業のM&A
日本経済新聞(以下日経)が2021年3月と4月に米国の「Thrasio(セラシオ)」※が日本に進出したこと、その事業モデルの日本版である東証マザースの「いつも」について連載紹介するほどAmazonセラー事業のM&Aの活況ぶりが伺える。(※スラシオの発音の方が近いが日経の表記に準じた。)
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2021年3月17日 日本経済新聞
米セラシオ、日本進出 EC出店の中小買収へ270億円
出所:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1304U0T10C2...
<以下抜粋>
米アマゾン・ドット・コムに出店する中小企業を買収し成長させる米新興企業セラシオが日本市場に参入する。このほど日本法人を設立。当面の買収資金として2億5000万㌦(約270億円)を用意し、今秋にも事業を始める。アマゾンジャパンのほか楽天やヤフージャパンなどで商品を販売する企業も買収対象とし、幅広い消費者の取り込みを狙う。
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2021年4月21日 日本経済新聞
Amazon攻略に200ブランド買収 EC支援新興「いつも」
出所:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC12BL40S1A41...
<以下抜粋>
国内の電子商取引(EC)市場で、中小出店者のブランドを買収して自社の傘下で成長させる取り組みが始まる。EC販売支援の東証マザーズ上場「いつも」が中小の200ブランドを買う。ECに特化した販売促進策を導入して中小ブランドの増収につなげるほか、出店者を束ねることで米アマゾン・ドット・コムなど大手ECへの交渉力も高め収益拡大を図る。
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■Thrasioを例に事業モデルの解説
図3 EC販売支援「いつも」の事業を説明する図
2018年に米国で創業したThrasioの事業モデルは、AmazonのEC内部でのセラー販売の事業群を、いわば「Amazon経済市場」の中での上場予備群のように見立てている。その事業群の中で光る「Amazonセラー成長株」を見つけて、買収し、成長させてリターンを得る。
Thrasioは自社がAmazon上での日々の事業において、蓄積している「膨大なデータ活用による需要と供給の予測」から「狙える製品カテゴリー」を計算してはじき出し、それに基づく「種」となるAmazonセラーの事業を見つけてM&Aをおこなう。
買収後、その事業にThrasioのAmazon市場のノウハウを注入して配合するだけで、計算した予測どおりに急成長させることができる。頭脳(データ蓄積・スクリーニング予測)と手足(マーケティング・販売)の両方を組み合わせて、安定した高成長を叩き出せる。個人に紐づくデータとは無関係なデータからの「予測」で、高リターンにまで「着地」させる新事業モデルだ。
このモデルはさながら一般市場での「プライベート・エクイティファンド」の事業モデルに例えられる。「芽が出ている種」を見つけて「水をあげ育てる」プロセスを、Amazon内部で展開させる「Amazon版」の登場と例えよう。
Amazon内部の経済において、セラー事業を買収&成長させるための「資金調達モデル(その資金のリターンがデカイと感じられるモデル)」が動き出している。次は、Amazon経済圏の大きさについておさらいする。
図4 各国のGDPランキングと時価総額上位企業(クリーム色)を組み合わせた図
出所:Business 2 Communityより筆者作成
■Amazonはすでに国家GDPレベルの経済圏で知らないうちに中央銀行化へ
なんでもAmazon上にリアル世界が転写されて、既存経済のミニチュアゲームがオンライン(Amazon)上で起こっているのは気づいていたが、それらが今や立派な等身大の「しっかりした資本経済圏」を形成している。この資本経済の「中に」旧来の「牛耳る側」であった世界の大手銀行系は、未だ参入できていない。
Facebookが「Libra通貨」の構想を立ち上げた際には、世界の大手銀行系から猛反発と阻止があったのに比べて、このAmazon経済圏に銀行系は「手がつけられない」のが実情である。暗号資産やブロックチェーンに代表される未来の世界の一歩手前で、「実業の経済圏」を先に広げている・・・
続きはMAD MANレポートVol.78にて
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