◎ 時価総額30兆円のフィンテック登場か。中国のデジタル通貨覇権
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◎ 日本が先駆け。Amazon Oneの手のひら認証の次
◎ 通信系事業者による映像コンテンツの切離しと5Gインフラの「脳」への準備(前編)
◎ 通信系事業者による映像コンテンツの切離しと5Gインフラの「脳」への準備(後編)
時価総額30兆円のフィンテック登場か。中国のデジタル通貨覇権
Alibabaグループ傘下のフィンテック関連会社で「Alipay(アリペイ/支付宝)」を運営する「Ant Group」が上場間近だ。その予想時価総額は27.5兆円。日本の金融大手3社の合計の倍の規模で、日本でのデジタル化への道のりも、中国市場での試金石が応用される可能性がある。
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2020年10月24日 Bloomberg
アントが上海IPO価格設定-香港と合計350億ドル規模で史上最大へ
出所:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-10-...
<以下抜粋>
アントのIPO規模は2019年に290億ドル(現行レートで約3兆400億円)だったサウジアラムコを抜いて史上最大となる見通し。ロイター通信によると、上海上場では1株当たり約68-69元で大口投資家の需要があった。これに基づくとIPO規模は最大173億ドルとなり、香港分を合わせると350億ドル(約3兆6700億円)近くになる。
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2020年11月3日に控えた米国の大統領選挙の直前号である今月号のMAD MANレポートでは、選挙結果の「予言」は控えておくが、安全保障上の懸念を理由に米国現政権における中国企業への牽制が目につく。
中国Alibabaグループ傘下のAnt Group(AliPayを持つ)は香港証券取引所と上海のハイテク新興企業向け市場「科創板」への重複上場を予定している。2020年10月21日に中国証券監督管理委員会がIPO申請を承認したので、数週間以内に上場する見通しだ。
資金調達額の規模が350億ドル(約3.9兆円)として、2019年12月にIPOしたサウジアラビア国営の「Saudi Aramco(サウジアラムコ)」の調達額294億円を上回り、世界最大のIPOとなる可能性がある。これに連動してTencent Groupが運営するWeChat Pay(微信支付)など、中国勢の決済システムに対する規制案が米国では多く報じられている。
TicTokには米国当局が「指導」ができても、世界のデジタル化と覇権構造の変化において今や主役は企業単体ではなく「金融再編とデジタル通貨」であろう。この波は米国がもがいても止めることができない。
■Ant Groupの時価総額は日本の銀行を足し上げた「さらに倍」のサイズ
米国(や日本)を横目に、ついにAnt Groupは新規株式公開の評価目標を少なくとも約30兆円越えに引き上げる計画だという。
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2020年10月26日 Bloomberg
アリババ傘下のアント、上海と香港のIPOで総額約3.6兆円調達へ
出所:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-10-...
<以下抜粋>
企業評価額は約3200億ドルに達し、JPモルガン・チェースを上回るほかゴールドマン・サックス・グループの4倍を超える。
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この記事の企業価値(Market Cap)の通り、3,200億ドルサイズになると、Ant Groupは一気に「J.P. Morgan Chase」や「Bank of America」よりも大きく、「Citigroup」の3倍の規模になる。日本の「三菱UFJ-FGと三井住友FGとみずほFG」を合計した、さらに倍のサイズだ。(図1は2020年10月16日時点の時価総額で整理した)
図1:2020年10月16日現在の時価総額
左は米国の主な金融機関とGAFAM 右は日本の時価総額ランキングから銀行系と有名企業を任意抜き出した。
各所市場データより筆者作成
Alipayの決済ネットワークは、昨年の取引総額は16兆ドル(約1,800兆円)に達し、8千万社の加盟店を結びつけた。ユーザーは資金を借りたり、6,000種類もの投資商品の中から選択したり、健康保険に加入したりすることができる。
Bloombergは「大手銀行、ウォール街のブローカー、巨大資産運用会社、大手保険会社が、シリコンバレーでデザインされた1つのアプリに収まるように縮小され、ほとんどの人が利用するようになったとしたら・・・」と例えるが、中国の人口は14億人だ。このBloombergの例えでも中国と比べると小さい。
このスケールは昨年発表されたFacebookによるグローバルな仮想通貨プロジェクト「Libra(リブラ)」の構想すら小さく見える。各所から構想を阻止されてしまったマーク・ザッカーバーグの当時の予言「我々の構想を阻止しても中国が同じことをやる、それでも良いのか」が思い出される。
■超高速で進化する中国金融
AliPayが創業したのは2004年で、10年後の2014年にAlibabaグループのAnt Group内で決済アプリとしてリブランドされた。創業15年程で米国や日本の銀行の価値を抜き去り、米国で1799年にルーツを持つ(200年以上の歴史)J.P. Morganと時価総額で肩を並べるのだ。中国の金融政策は官民合体で動くだけに(後述)、先進国よりスピード感がある。人民銀行によるデジタル人民元構想はすでに実験段階に入った。
「金融再編」の動きは中国だけではない。外出禁止の規制が、リアルとは別の場所で活動を急増させているのは身近に感じるだろう。電子商取引(EC)が盛んになったのはグローバルな動きであり、リモートワークの急増に加えてデジタル決済の浸透が進む。
米国の決済フィンテックである「Venmo(ベンモ)」では昨年と比べて52%、ラテンアメリカのフィンテックである「Mercado Pago」では142%の急増を記録した。「Amazon One(別章にて紹介)」に限らず、リアル店舗での物理的な接触や現金を使わずに即座に支払いができるシステムへのアップグレードも加速する。すでに世界の銀行・決済業界の株式市場に占める従来型銀行の比率は、2010年の96%から72%にまで低下している。
■重たいデータ「金融データ」の危惧
便利さと個人のデータとのトレードオフを、中国の企業(と国家)がリードしていく事に不安はないだろうか。中国の「Huawei」が米国から締め出され「TicTok」が米国企業の資本(Oracle)を注入させられる理由は、「急に巨大になった中国企業」の後ろに必ず中国政府が控えているからだ。
Ant Groupも同じ構造であるのが伺える。上場前のAnt Groupの株式は、江沢民元国家主席の孫・江志成氏が率いる投資会社、博裕資本有限公司(Boyu Capital)がアント・グループの株式を約3%(2種類に分けて)保有している。これもほんの一端の紹介だが、こうなるとAnt Groupは共産党側の管理制御装置の歯車のようなものだ。
民間フィンテックを装った中国国家の「プラットフォーム」企業が、個人からより多くの権利(権力)を束縛するのは想像がつく。これはまさに「重いデータ」側での危惧だ。
ネットワーク効果はフィンテックモデルに不可欠であり、多くの人がプラットフォームを利用すればするほど、そのプラットフォームの有用性が高まる。そして他の人もそのプラットフォームに惹かれていく可能性が高く、一気に独占状態に陥りやすい。
国家がより多くのデータを保有(与える)ようになれば、監視、操作、サイバーハックの標的の可能性が高まる。しかし「怖い」側だけではなく、包括的に考えなければいけない部分がこの章の結論であり、人類がまだ知れていない課題が・・・
続きはMAD MANレポートVol.72にて
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