● <特別再編集号>「新たなディストリビューションパイプ」となるDNVB
● データ事業はマーケティング・サービス事業のコアか。第二弾
Publicisが買収発表した「Epsilon」から考察
● 「新しい人類のデータ」を、ファーストパーティー・データとして蓄積始めたブランド
● 2019年、米TVアップフロントは。ますます単価の上がるテレビコンテンツ
データ事業はマーケティング・サービス事業のコアか。第二弾
Publicisが買収発表した「Epsilon」から考察
マーケティング上での「データ価値」への注目が集まる中、そのデータ事業が「レガシー・データ」と「ネット起点データ」とに二分されている。
全ての事象がネット上でつながる上において、データにおける「リアルとネット」、「軽いデータと、重いデータ」がくっきりと区別されてきているのが現状だ。
WPPがKantarの切り離しを考え、IPGがAcxiomを買収したのに続き、今度はPublicisが「Epsilon」を買収発表した。売却した「Alliance Data」側からその理由を探れば、「データ」の定義へのヒントが浮かぶ。
図1:クレジットカードのロイヤルティープログラムを得意とする
Alliance Dataの傘下企業であったEpsilonがPublicisに買収された相関図
2019年2月号のMAD MANレポートで示した予期したことが起こった。世界5大広告ホールディングス企業の第3位グループの仏Publicisが4月14日に、約4,800億円(44億ドル)でEメール・データを中心にしたCRMエージェンシーの「Epsilon」を買収すると発表し、2019年第三四半期に完了予定(図1)。決定を発表した主体は、現Publicisのアーサー・サドーンCEO(図2)。業界内でも知名度がまだ低いので、ここで写真と共に紹介しておく。モーリス・レヴィ前CEOより2017年6月〜CEO職を受け継ぐ。91年の歴史の中で第三代目のCEOだ。
■4,800億円で買うものは、データなのか
4,800億円というM&A規模は、エージェンシー業界では2013年に電通がAegis Groupを当時約4,000億円で買収した規模を上回る。先のIPGによるAcxiom買収は約半分の2,500億円級(23億ドル)だった。電通が2016年にAegis経由で買収したCRM企業のMarkleは約10分の1の480億円(4.26億ドル)のサイズである。
グローバルホールディングスのPublicis首脳が、考えあっての視座で買収したとは言え、「データ」という意味に対する焦りのようなものを強く感じる。百歩譲っても(いくら巨大な売上とデータを誇る企業の買収と言えど)「CRM」という単発(旧態)分野に4,800億円は巨額すぎる。
「2.5億人分の米国消費者の購買履歴を含むオフラインデータを、ファーストパーティー・データとして持つ事になる」と報道するメディアもある。しかしこれは大きな勘違いだ。Epsilon自体はそのデータを活用して自社物販を行わず、そのデータをクライアント(例えばCPG企業)ビジネスのために転売するエージェンシーの立場である。クライアントとの契約には多様であっても、立場としてはサードパーティーに近い。
この買収は広告業界人には過去のPublicisの失敗を思い起こさせる。Publicisはモーリス・レヴィ前CEO時代の2015年2月に、当時のデータ巨人と言われた「Sapient」を当時約4,000億円(37億ドル)で買収した経緯がある。
それ以降のSapientは鳴かず飛ばずどころか、Publicisは傘下の(あの)デジタルエージェンシー「Razorfish」と統合させてしまい(名前をSapient Razorfishと改名し)、さらには「Publicis Sapient」と改名。Publicisは会計上の企業価値も約半分の1,800億円程(15億ドル)を減損処理して、現在に至っている。
ホールディングスとしてのPublicsの企業価値は、Sapientを買収完了した2015年当時から下落の傾向で、2015年2月との比較で現在は約30%減少したままだ。サドーンCEOも「今回はあのような時間の無駄は起こさない」と述べる程のトラウマ的な痛手だった。
■米企業Epsilonとは、どのような企業概要なのか
Ad Age Datacenterの集計によるEpsilonの基礎データは、下記の通り。
・2018年のRevenue(粗利)は約2,400億円(21.7億ドル)
・全米CRMエージェンシーランキング2位(1位はDeloitte Digital)
・全米全業態ランキングで第4位
(1位Cognizant、2位Accenture Interactive、3位PwC Digital)
テキサス州に本拠を置くAlliance Data Systemsが2004年10月に当時約330億円(3億ドル)であったEpsilonを買収して傘下にしている。2004年当時はYouTubeもFacebookも誕生したばかりで、ソーシャル・ビジネスモデルは皆無の時代である。このタイミングでAlliance DataはCRMとEメールマーケティングを開始したEpsilonを買収している。15年を経た今回の売値が4,800億円(途中の買収加担は後述)、当然その間にキャッシュフローも稼いだ。Alliance Dataのホールディングス目線では、Epsilon売却にあたり「お勤めご苦労さま」と言いたくなる程の、働きぶりである。
■そんな働き者のEpsilonをAlliance Dataはなぜ売却するのか
図3:上場企業であるAlliance Data Systems の財務諸表
Alliance Dataにとって、Epsilonすでに「伸び盛り」を越えて、お荷物とは言わないまでも、現在は明らかに限界が見えた状態である。
米国での報道も「ファンファーレ」のごとく買収側のPRプレスリリースを元にして報道するので、「買う側のメリット」が強調される傾向がある。しかし反対側の「売る側」にも、買う側以上の戦略的理由(必然の理由)が存在してこそM&Aが成立するものだ。海外のM&Aは日本からは話題が遠いだけに一歩踏み込んで、「売る側の理由」をあえて考えて理解する必要がある。今回のEpsilonは・・・
続きはMAD MANレポートVol.53にて
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