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●マーチン・ソレルCEOが恐れる、「近視眼的思考」とは
●「vMVPD」の衝撃(導入編)
●【別冊レポート】「vMVPD」の衝撃
「バーチャルMVPD」の衝撃(別添「特別レポート」の導入編)
NetflixもTVerも追いつけない 世界に浸透するネット×テレビの新形態がもたらすビジネスを考える
図1:コムスコアが発表した、「vMVPD」と「OTTストリーミングサービス」との視聴時間比較。
「テレビ」本来の魅力であった「リーンバック」での長時間視聴が「vMVPD」(赤枠内)に多いことが伺える。
(出典: https://www.comscore.com/Insights/Presentations-and-Whitepapers/2017/State-of-OTT)
にわかに日本で沸いてきた、政府による「電波オークション」の導入(電波の周波数帯の利用権を競争入札にかける)の検討は、偶発的な出来事ではない。米国や欧州ですでに始まっている「電波オークション」も、それを包括する「ネット×テレビ」の融合のトレンド(医療から交通まで他産業を含む)の隆起から、ようやく日本でも重要課題として(再)浮上してきた現れである。
この議論の背景には、既存の利権課題は横に置いて、テレビ変革の第一波としてやってきた現在のOTTストリーミング(※1)を超えた、「ネット上のテレビ」の需要が今後ますます拡大流通している事にある。視聴者側の選択肢が増えて広告主、放送局を含めた再編に向う実在シグナルと見て良いだろう。
そのエコシステムが立ち上がるタイミングは「オリンピック前」を目指すことが各ステークホルダーも望む所だ。テレビ業界には既存利権の上に成り立つ旧ビジネスとのカニバリを含む、いよいよ待ったなしの新ビジネスへの移行の「本格的な第二波」がやってきた。
(※1:Over-the-top, 従来の放送電波やケーブルTV設備に頼らない、ネット経由の動画番組コンテンツの配信。第一波の代表格がNetflix、Hulu、等)
このOTTストリーミングを含む「テレビのネット化」において、日本にはまだ上陸できてない概念だが米国で急激に注目を浴びている「vMVPD(virtual Multichannel Video Programming Distributor:以降vMVPD(※2))」というテレビ(番組)の放映事業形態がある(図2)。米Googleを筆頭とした大手企業の参入が相次いでおり、このビジネスモデルを把握することは、デジタル上での番組コンテンツを使ったマーケティング・エコシステムを把握する上で重要となるので、今回添付する「特別レポート」の予告編としてお伝えする。(※2:発音はそのままヴィ・エム・ヴィ・ピィ・ディ、あるいは「バーチャルMVPD」と読む)
図2: vMVPD事業として区分けされるサービス例
この聞き慣れぬ「vMVPD」の例として、日本では「YouTube TV」が今年7月に米国で始まった事が日経新聞等で報道された。筆者(在ニューヨーク)は今年のテニス「USオープン」の生放送を、この「YouTube TV」を使ってスポーツチャンネルのESPN上で視聴した。ニューヨーク中でマリア・シャラポワが復活出場する事が話題になっていた中、テニスのファンでは無い筆者でさえも、「今、試合に出てる!」と街で聞いた時にスポーツバーに駆け込む事なく、その場でオフィシャル映像での試合をスマホから見ることができた(図3)。
図3:YouTube TVのスマホアプリ画面例 ESPNのライブ放送が画面で見られる。
(著者のiPhoneのYouTube TV画面スクリーンショット)
上記は些細な事例だが、「テレビがまんま、スマホで見るネット上にある」のだ。これがvMVPD配信とNetflixに代表される他のOTTストリーミングとの大きな違いの1つだ。vMVPDの「YouTube TV」のアプリがあって月間視聴の購読 (35ドル=約4,000円)をしていれば、現在テレビ放映されている主要チャンネルの全番組が、モバイル環境でも(もちろんリビングの70インチスクリーンでも)どこでも見られるのだ(しかも「録画=あとで見る」の設定も可能だ)。本編で説明するが、「YouTube TV」は現YouTubeと全く別サービス、別事業と考えた方が良い。
■vMVPDはOTTストリーミング配信事業の形態の一つ
新興の「vMVPD」概念は動画・番組を配信目線から事業の形態を表す「くくり」の言葉だ。元々「v=virtual」が付かない「MVPD」のくくりで、欧米の「ケーブルテレビ放送事業者」や「衛星テレビ放送事業者」の事を総称していた、その延長概念が「v」MVPDである。
元のMVPDは100チャンネル以上もの番組チャンネルを束ねて(=Multichannel Video Programming)、自社の放送施設とケーブル回線や衛星電波経由でテレビ受像機に番組を配信するサービス(Distributors)を現していた。このくくりの単語「MVPD」他にも「VOD」のカテゴリーには「SVOD」、「AVOD」、「PPV(EST、TVOD)」と、業界お得意の3文字・4文字のくくり略語がずらりと登場する(別添の特別レポートで詳細仕分け補足する)。
この長年続いた「テレビ放送」事業の形態が、「v」MVPDの登場により放送電波だけでなく、ケーブル回線や衛星電波の放送設備や回線を持たずとも、「通信」の範囲で行き渡ったネット回線上で「バーチャルに」同様の番組配信ビジネスが行えるようになり「v=virtual」を付けてvMVPDと称し、事業を拡大してきている。
このvMVPD事業が米国で何を動かしているのか(凄いのか)を紐解くのが特別レポートの趣旨だ。決してバラ色の未来だけではなく、答えの見えないトンネルに突入している側面もある。
■vMVPDはNetflixなどのOTTストリーミングサービスと何が違うのか
ビデオ・ストリーミングやVOD (Video On Demand)の流通を通じ「ネット×テレビ」の融合が掲げられて久しいが、これまでの「ネット上のテレビ」は一長一短の機能ばかりであったのを感じるだろう。
例えばOTTストリーミングの最有力である「Netflix」のオリジナル・コンテンツの品揃えは素晴らしいが、民放のバラエティー&ドラマ番組が見られる訳ではないし、生のニュースもスポーツもほとんど無い。この状況は程度の差はあるが、「Amazon Prime Video」も「Hulu」も同様であり、「d-TV」や「AbemaTV」に至っては「現行のテレビ環境」とはまったく別のニッチ・コンテンツを流す。
民放が寄り添って開始したTVerは極端に一部の番組に限られている事と、上記同様に生のニュースやスポーツ、映画は一切無い。(元々、TVer設立の経緯はネット上でのテレビ番組の違法配信が増加したことから、これらを撲滅する「対抗手段」として無料サービスを開始していた。)
一方で、欧米のvMVPDが地殻を動かしたのは・・・
続きはMAD MANレポートVol.34にて
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