<10月号の目次>
◎ スマートTVのACR技術とその利用価値
◎ 企業マーケティングの潮流「DEI」の方向転換
◎ 【コラム】缶入りワインの流通拡大に寄与する意外なテクノロジーの進化
◎ 【コラム】MAD MANが解説する日本でのニュース
企業マーケティングの潮流「DEI」の方向転換
2024年の米国大統領選を控えた直前号として、静かに進行している企業動向や経済の動きを示唆する。米国大統領選直前のこの時期は、いわゆる「オクトーバー・サプライズ」が注目されている。4年ごとの11月初旬に実施される大統領選挙に向けて、選挙直前の10月には何かしら大きな影響を及ぼす予期せぬ出来事が起こるという風潮がある。まるでドラマ番組の結末を最後の10分に期待するかのような感覚だ。
ところが、今回は(※2024年10月23日時点で選挙まで残り2週間)、ビックリするほどのドラマチックな事件は少なく、メディアが取り上げる記事の賑わいにも物足りなさを感じる静かな状態が続いている。この静けさのなかでこそ、目立つ事件に隠れて静かに進行する事象(見えにくい側面)も確認しておこう。本章では、「DEI(DE&I)」が「静かに(停止)」している様子を取り上げる。
DEIとは、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭文字をとった略称であり、日本でも馴染みのある概念だ。しかし、この概念が企業の発信メッセージとして「コピペ」や「とりあえず入れておく」といった姿勢になっていないか、次の自社判断の次の参考にしてほしい。
以下は、米国トヨタの事例だ。
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トヨタ、LGBTQ支援をめぐる活動家の攻撃を受けてDEI政策を縮小
2024年10月3日 Bloomberg
出所: https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-10-03/toyota-curbs-dei-policy-after-activist-attack-over-lgbtsupport
<以下抜粋(DeepL翻訳)>
トヨタ自動車USは、多様性、公平性、包括性(DEI)に対する企業のコミットメントをめぐる「非常に政治化された議論」を理由に、DEIプログラムの焦点を絞り直し、LGBTQイベントへの協賛を中止する。
また、LGBTQ擁護団体「ヒューマン・ライツ・キャンペーン」やその他の企業文化調査による注目ランキングへの参加も中止すると従業員に伝えた。同社は木曜日、5万人の米国従業員と1,500のディーラーに宛てたメモの中で、「STEM教育と労働力の準備に沿うよう、コミュニティ活動を狭めていく」と述べた。
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日本企業であるトヨタが米国で発信したシグナルとして、この事例を紹介した。DEIは、ここ数年日本でもトレンド用語として話題になっているが、トヨタがこの取り組みを停止したとなれば、日本のメディアでも大きく取り上げられる可能性がある。
上記の記事は米国での英文発表だが、日本語報道をGoogle検索で確認すると、「反DEI活動家の批判を受けて」という受け身(被害者側)の理由が同じ文章で使われていることがわかる(参考:Google検索結果一覧)。日本語メディアがいかに一様な報道をしているかはさておき、その背景には必ず「資金や経済(そして政治)」が関与しているという示唆がある。この点を、MAD MANレポート読者には経営者目線でアンテナを張っていただくとしよう。
実際、米国では企業のマーケティング活動の一部停止程度では、大統領選挙前の10月に記事のインプレッションを稼げるほどの話題にはならず、メディアでの露出も限られている。これはまさに「見えにくい側」の動きだ。また、多くの大企業がDEIを推進しているため、DEIの停止に関する騒動はマイナーな事例とされ、参考にする必要がないとみなされている。
■トヨタ以外にもすでにDEIを取り下げている企業の事例
読者向けに「日本のトヨタ」の事例を紹介したが、2024年に入ってから米国企業でもDEIの停止を発表する動きが相次いでいる。以下に、企業の公式発表では大きく取り上げられないものの(そっと手を引く)、メディアに報じられた内容を時系列に並べて紹介する。
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PwC(コンサルティング)
2024年2月7日 HR Brew
PwC removes diversity requirement for Start interns
(PwC、スタート・インターンの多様性要件を撤廃)
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Tesla(EV製造販売)
2024年2月9日 CNN.com
Tesla erases references to DEI from its new 10-K following Elon Musk’s criticisms
(テスラ、イーロン・マスクの批判を受け新10-KからDEIへの言及を削除)
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Deere & Co.(農業・建築機器、トラクター販売)
2024年7月17日 AP News
John Deere ends support of ‘social or cultural awareness’ events, distances from inclusion efforts
(「社会的または文化的認識」イベントの支援を終了 インクルージョンの取り組みから距離を置く)
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Microsoft(クラウド・テクノロジー)
2024年7月17日 New York Post
Microsoft reportedly fires DEI team — becoming latest company to ditch ‘woke’ policy
(マイクロソフト、DEIチームを解雇したと報道される — 「意識高い系」ポリシーを廃止する最新の企業に)─────────────────
Harley-Davidson(老舗バイクメーカー)
2024年8月19日 CBS News
Harley-Davidson is dropping DEI policies after pressure from diversity critics
(ハーレーダビッドソン、多様性批評家からの圧力でDEI政策を取りやめる)
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Lowes(大手ホームセンターチェーン)
2024年8月28日 AP News
Lowe’s changes some DEI policies amid legal attacks on diversity programs and activist pressure
(ロウズ、多様性プログラムへの法的攻撃と活動家の圧力の中、DEIポリシーの一部を変更)
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Ford(大手自動車メーカー)
2024年8月29日 CNN.com
Ford becomes the latest company to scale back its diversity and inclusion policies
(フォードがダイバーシティ&インクルージョン方針を縮小する最新企業に)
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Tractor Supply Co.(トラクター製造販売)
2024年9月3日 FastCompany
I’m a queer farmer. Here’s how I’m fighting back against Tractor Supply’s anti-DEI stance
(トラクター・サプライの反DEI姿勢にどう反撃するか)
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Apple
2024年10月16日 MacDailyNews
Apple’s HR / DEI executive exits after less than two years
(アップルの人事 / DEI担当幹部が2年未満で退職)
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上記の例は、2023年8月号 Vol.105で紹介した『McDonald’sがひっそりと消した「ESG※」』の続編といえる。これらの「そっと手を引く」動きは一見目立たないものの、大手資本側の意向がこれほど一斉に現れるタイミングは非常に象徴的である。(※ESG:Environment「環境」、Social「社会」、Governance「企業統治」の頭文字。)
以下に、2023年8月号 Vol.105から一節を抜粋して掲載する。
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McDonald’sがひっそりと消した「ESG」
図1:McDonald’sがコーポレートサイトの「私達のパーパスとインパクト」のページに掲げていた
「ESG」の言葉が2023年8月時点では消えている
出所)左:Web.archive.org 右:McDonald’sのコーポレートページ
ひっそり消えている(言い換えられている)概念的単語のトレンドは「ESG」だけでなく、「SDGs」、「ダイバーシティー・エクイティ・インクルージョン(DE&I)」、「グリーントランスフォーメーション(GX)」、さらには「個人情報の保護(GDPRやCCPAを含む)」などが代表的だ。
欧米ではこれらのコトバの概念やイメージ、使い方について第2ラウンド、第3ラウンドを回って多角的な見地が生まれている。
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■差別解消の取り組みに関する課題
DEI(多様性・公平性・包括性)は、人々を平等に扱い、差別をなくそうとするムーブメントだが、なぜ避けられたり、否定的に捉えられたりするのだろうか。Washington Postが実施したDEIに関する世論調査(2024年6月)では、回答者の6割がDEIの取り組みは「良いこと」と評価しており、多くの人が賛同しているとされている。
参考までに、HRC(Human Rights Campaign)が毎年発表する受賞企業リストがある(図2参照)。上記で取り上げた企業の多くは、今後この調査に参加しないと表明している。
図2:HRC 2023-2024年度の受賞企業リスト
出所)2023-2024 Equality 100 Award CEI Recipients
企業の姿勢やマーケティング活動は、現在の正誤の議論だけではなく、今後数ヶ月先や数年先の動向の予兆となる。鋭い感覚を持つ企業の動きが、次のヒントになるはずだ。日本企業である「トヨタUS」の判断も、先行事例として「なぜそのような決断に至ったのか」を・・・
続きはMAD MANレポートVol.119(有料購読)にて
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