MAD MAN MONTHLY REPORT

Vol.118 WalmartとStockXが生み出す次世代リセール市場(前編)




<9月号の目次>

◎ WalmartとStockXが生み出す次世代リセール市場(前編)・(後編)

◎ AIデータセンターと電力供給の相互作用


◎ 【コラム】再生可能エネルギー施設で注目すべき電力量の単位

◎ 【コラム】MAD MANが解説する日本でのニュース


WalmartとStockXが生み出す次世代リセール市場(前編)

 

1:Walmart.comがリセール・マーケットプレイスの「StockX.com」に市場を解放した様子
    ①Walmart.comのオフィシャルサイト ②実際の販売と配送はStockX社

出所)Walmart.com

 

本章では、プレミアムスニーカーを取り扱う「StockX」を事例として、「リセール(再販)プラットフォーム」事業を紹介し、このニッチなカテゴリー(リセール)のマーケットプレイスに参入したWalmart.comについて解説する。Walmartは、マーケットリーダーであるAmazonの弱点を突くため、「二番手(マーケット・チャレンジャー)戦略」を強化してきた。

図1は、Walmart.comのマーケットプレイス上(図1の①)で、セラー出品社としてStockX(図1の②)が自社の認証プロセスを経て、NIKEのJordanシリーズとラップ・アーディストであるTravis Scottとのコラボ品をリセールしているサイトのキャプチャだ。日本の通販サイトでは、この商品や女性用で9万円の価格が設定されている。Walmartは、このスタートアップ企業とリセール分野で提携したのだ。

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ウォルマート、マーケットプレイス推進でeコマースの成長加速
2024年8月28日 PYMNTS
出所:https://www.pymnts.com/news/ecommerce/2024/walmart-aims-supercharge-ecommerce-growth-with-marketplace-push/

<以下抜粋(DeepL自動翻訳)>
WalmartはライバルのAmazonに対抗するため、小売大手はマーケットプレイスの提供を拡大しようとしています。
同社は火曜日(8月27日)、サードパーティセラー向けのさまざまなアップデートを発表しました。2024 Walmart Marketplace Seller Summitプレミアムビューティーや中古商品などの新しい商品カテゴリーの導入、クロスマーケット販売を簡素化するための機能を発表しました。
同社はまた、マルチチャネル・フルフィルメントの計画についても言及し、出品者がウォルマートの物流ネットワークを利用して他のeコマースサイトからの注文に対応できるようにすることや、世界的な発送を合理化するための越境輸入サービスについても言及した。 昨年の各四半期において、このマーケットプレイスは30%以上の売上成長率を記録している。─────────────────

StockXは2022年に東京・表参道にも実店舗をオープンしている。この店舗の目的や機能(広さやアクセス)については、MAD MANレポートの読者のみなさんにも「目で見る」視察も可能だ(図2参照)。

 

図2:東京の表参道に2022年オープンしたStockXの「ドロップオフ(販売品持ち込み)」の店舗

出所)Google Street View

 

前編では、マーケットプレイスを理解するためにStockXの事業が特化している点について解説し、後編ではWalmartがリセール市場に踏み込む目的について紹介する。

 

■Walmartのマーケットプレイスに関する4つの特徴

まず、マーケットプレイス(売買が双方でおこなわれる場)と自社仕入れ品販売のECサイト(売り手から買い手への一方向の取引)」を区別して理解しておきたい。本章の前編・後編で、大手企業であるWalmartがマーケットプレイス事業において、ブランド保証が難しいリセール分野にアクセルを踏み込んだことが、流通事業のエコシステムに大きな変化をもたらすシグナルであることを示そう。

この変化の4つの特徴は以下の通りだ。

  1. Walmart.comは、フルフィルメント・センターに巨額の投資(4年間で約10兆円)をおこない、StockXのようなサードパーティのフルフィルメント企業と連携を強化し始めた。これにより、小規模なマーケットプレイスに対して、巨大なマーケットプレイス(強靭な鍋底)を開放し、フルフィルメントのネットワークを提供する体制が構築された。これはWalmartの過去のインフラ投資を回収する動きでもある。
  2. Walmartの企業ブランド(リテール店頭)ではあまり取り扱わないようなGenZ世代向け商品を、ニッチなマーケットプレイスであるStockXを通じて販売するという、新しいブランド構築の試みが進んでいる。これは、2016年から2018年のM&Aで吸収されたブランド品販売戦略とは異なり、バーティカルな新しいビジネスモデルだ。
  3. StockXは基本的にオンライン商流のみで展開しているが、Walmartは実店舗販売を起点とし、店舗と倉庫を活用したフルフィルメントによる「エンドレス棚」を提供する形で事業を展開している。これによりStockX単独ではリーチできなかった顧客層にもアプローチできるようになった。国境を超えた希少価値の高い在庫を持つ取引への狙いは、オンラインが主要な役割を担い、リアル店舗は補完的な存在としての関係性がみられる。
  4. 消費者のオンラインシフトが進む一方で、納品者(セラー)側のマーケットプレイス利用経験にはまだ成長の余地が残されている。たとえば、出品する商品の認証センターへの配送手続きや、箱詰め、配送ラベルの貼付といったプロセスに慣れている人は多くない。StockXはこの課題に対応するため、世界各地に「ドロップオフ」拠点を設け、納品者側の教育と広告投資をおこなっている。

 

■StockXの基本情報

  • 創業:2015年、米国Detroit
  • 調達資金合計:約760億円(6.9億ドル、当時のレートで換算)
  • 企業価値:約5,300億円(資金調達時のバリュエーション評価38億ドル、 2024年9月時点)
  • 投資者例:Google Ventures、Battery Ventures、Steve Aoki、Marc Benioff (Salesforce CEO)、Karlie Kloss、Eminem他
  • リセールのセラー向け管理プラットフォームのSCOUTを2021年11月に買収

<現在上場しているリセール、スニーカーの新興企業との企業価値比較>

  • StockX(リセール企業)5,300億円(38.0億ドル)未上場
  • The Real Real(リセール企業)490億円(3.5億ドル
  • ThredUP(リセール企業)140億円(1.0億ドル
  • Allbirds(新興スニーカー)140億円(1.0億ドル
    (※1ドル=140円にて換算)

 

図3:StockXのNew York(SOHO地区)のドロップオフ店舗の外観(上)
ドロップオフ店内(左下)、店頭在庫の出荷の様子(右下)

出所)筆者撮影(202311月)

 

■StockXのマーケットプレイスで取引される商品

StockXはプレミアム価値があるスニーカーの取引が強調されているが、これはMAD MANレポート用語でいう「紙芝居」側に過ぎない。プレミアムスニーカーは、ファンを拡大するための入口に過ぎず、そのカテゴリー単体程度では、マーケットプレイス事業としての採算は成り立たない(商品受注&配送のフルフィルメント施設投資が永遠に回収できない)という現実がある。

GenZ向けのプロダクトを通して、多国籍に共通する価値(SNS上のコミュニケーション)を広げる要素を持っている「スポーツ」「ミュージック」「トレンドアイテム」といった分野における価値の裾野をオンラインで広げ、出品者(セラー)を増やしていくのがStockXの事業の一つのステップだ。そのため、Walmartの強靭な鍋底へ「乗せる」ことで、さらに強みを高めたと言える。「リテール事業への回帰」と言われる現象が発生している・・・

 

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