<12月号の目次>
◎ 「Kura Sushi USA」がみせる寿司市場の日米逆転
◎【起点観測】IPOで注目されたD2Cブランドの企業価値比較
◎ Glossierが目指すLVMHとの100年事業への成長(前編)
◎ Glossierが目指すLVMHとの100年事業への成長(後編)
◎【コラム】MAD MANが解説する日本でのニュース
「Kura Sushi USA」がみせる寿司市場の日米逆転
図1: Revolving(回転する)を冠とする「Kura Revolving Sushi Bar」のロゴ
■Nasdaq市場へのIPOで全米50店舗展開中のKura Sushi USA
「くら寿司」の米国チェーン店で食事をするなら「計画的に、早めに」行かないと長蛇の列に並ぶ羽目になってしまう。お昼時ならば、営業開始の11時前に並ぶのがコツだ。
もちろん、予約は受け付けていないので、早いモノ勝ちで店頭のウェイティングリストに名前を入力して待機する。マンハッタンにはまだ店舗がないが、ハドソン川を渡ったニュージャージーには2店舗ある(マンハッタン未進出は後述する事業パターンの見本)。
図2:kurasushi.comの公式サイトのイメージ動画
Kura Sushi USAを他の競合サービスと例えるなら、ファーストフード・チェーン店ではなく、ディズニーランドの人気アトラクション(ライド)としよう。レストランと競合比較するよりもディズニーランドと、例えてみた。
Kura Sushiは、お金を払ってわざわざ並んで“食”の欲求をお腹いっぱいに満たすことができる場所なのだが、ジェットコースターのようにいち早く列に並び、その楽しみを共有する気持ちを作っている。
次々と廻ってくるお皿を見る楽しみやサプライズがあり、しかも食べれば食べるほどお土産(景品)までももらえる仕組み。「食べたい・並びたい・行きたい・ウワサの・次は何・挑戦するぞ」を日本でお馴染み仕掛け(機械)を米国基準に調整して用意している。
その結果、Kura Sushi USAの来店者は子どもや家族連れ、女性同士が大半だ。単なる「早い、安い」のマクドナルドのような立ち寄り感ではなく、「わざわざ・計画的に・予約が取れない店」として訪れる顧客が多い。
デジタル入力が基点のマシンオペレーションの店舗経営は、「エンタメ・テクノロジー企業」としての期待価値も膨らませる。ここまで整備されていれば、米国の投資家は見逃せない。さらに、1店舗のポップアップ実験ではなく、Kura Sushi USAはこの実験を10年以上、50店舗にて、機材投資とテック投資を積み上げている。そろそろ花が咲く時期が来たようだ。
■「日本を輸出する」ではなく「米国に輸入させる」発想
寿司(回転寿司)は、確かに日本の文化や産業だが、それらを日本基準のままで押し付けて輸出するのではなく、Kura Sushiは米国市場の起点から逆算して輸入(適合化)させる姿勢がある。そのために米国市場からの資金調達(人気投票)を獲得しようとする姿勢として、Nasdaq上場を山登りの一合目として達成、通過した。
身近な日本のマーケティング界隈で使われる「カスタマーファースト」「顧客視点」「共創、伴走、共に、接点」の根っこにある、このような「地元の市場に根をおろす」という事業の姿勢や世界が、きっとどの地元にも当てはまるということには気づいておきたい。
■BBQステーキの街、テキサス州オースティンの「くら寿司」の人気
ロサンゼルスやサンフランシスコ、あるいはニューヨークへの店舗進出ならば、海に面している土地柄で、シーフードの食文化や日本文化にも理解があるので、SUSHIビジネスが受け入れられるのはわかりやすい。
その逆に、海に面しておらず、気温が高く(夏は40度以上)、BBQやステーキのメッカとされる南部テキサス州オースティンや中部イリノイ州シカゴ、砂漠のネバダ州ラスベガスへ向けて、わざわざSUSHIビジネスをあなたならば展開するだろうか。
図4:KuraSushi.comの2009年からの米国店舗展開の足跡、基点であるカリフォルニア州を青色に塗り、
テキサス州などの「大海洋に面してない州」を赤色で仕分けした。IPO以前に「海のない」場所での実験投資が見える。
出所)Kura Sushi USAの2023年8月末締めのAnnual Report
Kura Sushi USAには、あえてこのハードルの高い方に向けて事業展開するシナリオがIPOをする前から存在していた。大海洋に面していないテキサス州やイリノイ州、そして砂漠のネバダ州に9店舗を展開させている(同時にカリフォルニア州は11店舗|図4参照)。
図5: 2019年以前IPO前の進出パターン(上)と、IPO以降の店舗進出(下)の出店戦略図(※図4と連動)
★は基点のカリフォルニア州で、★は海のない内陸州に進出している様子。
上図はカリフォルニア州での収益や実績を基点として内陸州に実験的に出店し、
IPO以降に東海岸の海沿い地域に満を持して展開しているステップがみえる。
出所)Kura Sushi USAの2023年8月末締めのAnnual Report
発想として、「小さく始めて徐々に少しずつ大きくして、いつの日にかIPOへ」のような“If Possible(可能ならば)”のミニマムな発想の登山は楽しくない。登山の頂上を定めて逆算して「高い山に登ろう。その登り切った上で次の山のIPOへ行く」という発想が楽しい。この例えでいくと登頂すらが通過点になり、次への一合目のシナリオになる。
2023年11月号 Vol. 108で紹介した図表を再掲(図6参照)して、イメージを紹介する。展開が容易な市場に降りるのではなく、難しい方へ向かうためのキリリとした姿勢の確認としたい。
図6:難しい市場に「登る」のか、やさしい市場に「降りる」のか、の例えを表した図
出所)筆者作成
Kura Sushi USAの実際の店舗(経営)を「一度視察すれば十分」とか、「米も不味いし、あれは寿司ではない」と評しているコメントは、ほぼニホンジン目線の固定概念の評価である。下記の評価の一例をみると、テキサスの地元でも驚くほどに受け入れられている手応えがある。
【参考①】
オースティン在住のアジア系の女性二人によるくら寿司の動画。店内のシステムや様子、メニューなどが紹介されている。【参考②】
オースティンの地元メディアの取材、店内の様子(図7参照)
図7:タッチパネルだけでなく各席に「Bikkura-Pon」の仕掛けが見える
図8:TripAdvisorのKura Sushiテキサス州プレイノ店のレビュー(星の数)
出所)TripAdvisor
■Kura Sushi USAの基礎データ
まだまだ小粒な事業には違いないが、以下の推移を見る限りKura Sushiには堅実な山登り(派手過ぎず急激な成長を求めていない登り方)の様子がみえる。
<株式市場の展開>
2008年、US法人を設立(日本法人本社の起業は1995年)続きはMAD MANレポートVol.109(有料購読)にて
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