<9月号の目次>
◎ 風前の灯火のWeWorkと法改正が追い風のAirbnb(前編)
◎ クルマの「目」が新たなコンテンツ価値を生む
◎ RAKSUL社の経営にみる山の登り方
◎【コラム】ジャニーズ公式サイトが公表している姿勢
◎【コラム】MAD MANがみる日本でのニュース
クルマの「目」が新たなコンテンツ価値を生む
図1:クルマの中のスクリーン・モニター(赤四角)とカメラ(赤丸)の様子
上:筆者が東京でUberに乗車した際のトヨタ・アルファードの運転席
下:「Comma.ai」を装着した韓国Hyundai車の運転席
出所)上:筆者撮影 下:The Verge
「クルマは『命に関わる重たいデータ』のエッジ(末端)デバイスであり、走行中の情報はクラウドとスーパーコンピューターに即時に高速解析・強化され、ユーザーに共有される。ユーザーはクルマというデバイスを通して、あたかもVRゴーグルを被ったような『1人称』のデータの環境の中で過ごす。移動空間が高度に安全で快適に過ごせるようになり、社会データ・インフラとなる。」
この自説は、これまでTesla(Starlink・DOJOスパコン・電力・AI・Xアプリなど)を例に紹介してきたが、本章は「Comma.ai」を事例にして追記する。テーマは「目(高解像度カメラ)」からの映像コンテツの価値だ。
図1の上段は、筆者が2023年8月に東京で撮影させていただいたUberのトヨタ・アルファードの車内の様子だ。カメラやディスプレイモニターが所狭しと装着(アドオン)されている感がある。
バックミラーはデジタルインナーミラーになっており、車両後方のカメラの映像をディスプレイに映し出している。その左側の赤丸はドライブレコーダーで、クルマ前方と後方、室内を撮影し記録している。手元の二分割モニターは、360度モニターが車を上空から俯瞰して見下ろしたような映像を投影しており、自動駐車や狭い道路での運転をアシストしていた。
■Teslaはスパコンとデバイスを提供するデータ企業
MAD MANレポートでは、Teslaは「クルマのカイシャ」ではなく「スパコンのカイシャ」と定義し、スパコンにより「重たいデータ」を解析&提供する企業と例えている。Teslaのデバイスから衛星通信パイプとクラウドを経由して蓄積される、ナノ秒単位の即時データの累積は他社が真似をするのは困難である。他社がすでに追いつけない、新・ウォールド・ガーデンが構築されている。
さらに、そのスパコンを動かす「発電・電力(蓄電ではない)」や、衛生通信パイプである「Starlink」が垂直に融合してくる(4,786基のStarlinkが上空を飛んでいる 2023年9月20日時点)。
Teslaだけでなく、もちろんトヨタや日産、Ford、GM、Mercedes、さらにApple CarPlayやAndroid Autoも、クルマを「デバイス」としてのサービスを考えており、日常のサービスに近づくような競争が高まっている。
たとえば、「我が社では自動運転レベル2(ハンズオフ)の搭載車リストをここまで増やしました」や、「自動運転レベル3(アイズフリー)の車種登場」などの「これがデキる、あれがデキる」の話題で乗用車ユーザー(B2C)の間でも認知があがっている。また、その自動化を管理するシステムとして「B2B向け」のサービスの話題も見られるようになった。
Amazonは自動車産業でバーティカルのIoTに特化したクルマデータのクラウドサービス(AWS IoT FleetWise)をB2Bで提供している。AWS IoT FleetWiseは車両データをほぼリアルタイムで収集、変換してクラウドに転送しており、この機能をクルマの製造販売会社やレンタカー会社が利用している。
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IDOM CaaS Technology、AWSのAWS IoT FleetWiseを活用し車両マネジメント環境を強化
2023年9月15日 株式会社IDOM CaaS Technology
出所:https://prtimes.jp/
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このAWSによるB2BサービスはIoTサービスなのだが、Amazon自社ではデータ収集のデバイス(クルマ)を持たないサービスなので、例えて言えば「アレクサ」不在のサービスだ。クラウドの「脳」の解析に特化した(目や耳を持たない)サービスとしてB2BとB2Cサービスとの区分ができる。本章は「B to C」サービスがテーマだ。
■Teslaは「カメラ(目)」で映像データの加工解析に特化
図2:Teslaの「Model Y」のカメラ位置 図の位置に9個のカメラが機能している
出所)Tesla Model Y Owner's Manual
Teslaデバイス(もはやクルマと呼ばず)の特異な点は、センサー(例:レーダーやLiDAR)や地図データ(例:Google MAP)に頼らずに、「目(高解像度のライブカメラ)」の即時データを積み上げる事業モデルである点だ。
カメラからの映像データは情報密度が高い分、データ容量が大量になり、解析する難易度が高くなる。レーダーからのデータであれば「近い、遠い」という単純化したデータ用途で済む。ところが、映像データならば「前を走っているクルマの運転の仕方は危ない」なども判断できる。
■ライブ映像データをナノ秒で解析するコンテンツの価値
このカメラから収集される映像データこそが「安全・快適な新・コンテンツ」と称することができる。映像コンテンツの価値は「Netflixの完パケ番組」の二人称データ(すべてが揃い、編集も終了している完成品)から、「刻々とカメラから収集されるジブンの次の行動の一人称データ」「ライブデータ」に重みがシフトする。「即時(ナノ秒単位)」がカギだ。
単に車がサブスクになることではなく、車がデバイスとなって集められる「重たい側のデータ」の量が爆発的に増えることが革命的なのだ。
これまでのスマートフォンは、単なる電話機能の音声通信から動画や画像、テキストのデータ通信に変わり、それがワイヤレスで互いに大容量でも通信できるようになったが、そのデータの蓄積は第三者側にあった。よって「一人称(ユーザー)」側はSNSアプリを無料で利用したり、Netflixで映画を無制限に視聴するために月額790円を払ったり、などの軽い課金だった。第三者が蓄積できる程度の容量データとも言える。
さて、この新デバイス(クルマ)が集積する「重たい側の1人称データ」「刻々と蓄積されるライブデータ」の生活インフラは、月額いくらが適正だろうか。過去のコンテンツ月間消費支出では、一家庭あたり1〜2万円のような相場があった。今は映像コンテンツ(のデータ)を引き合いに出したが、今後はあたかも「家賃」や「電気・水道」のように基礎的なインフラの費用(例:蛇口をひねれば出てこないと困る価値)に昇華する可能性もある。
■「Comma.ai」の目
図1下段で紹介した「Comma.ai」社が提供する、クルマの自動運転機能を持たせることができる開発デバイス「Comma 3X」も、この「目(高解像度カメラ)」がカギだ(図3参照)。しかも「Tesla級かそれ以上のドライビング環境を提供できているのにTeslaより格安」として認知度を上げている。どのクルマにも装着できるデバイスであるため、Teslaを買わずともトヨタやホンダ、Fordの既存ユーザーが試してみたくなるという広がりを見せている。
Comma.aiは、iPhoneハッカーで名を馳せていたジョージ・ホッツ(George Hotz)氏が2015年に創業した「自動運転デバイス(Openpilot)」のスタートアップだ。
図3:Comma.aiの「モデル Comma 3X」のドライバー側スクリーン面(左上) 前方を撮影するカメラ面(右上)
下段はサイズがiPhone Pro Max程度だとわかる
前方を見る赤丸2個のカメラ位置が「人間の両目の間隔」なのも気づきのポイントだ
出所)Comma.ai
図3のデバイスの購入を申し込んだドライバーは、デバイスを自分のクルマのフロントガラスに取り付け、車両に標準装備されている特定のプラグ※にワイヤーを接続し、数本のプラグを差し込むだけで利用ができる。初期費用は2,199ドルだ。
(※2021年頃のモデル以降の多くのメーカー(図4)にある車の仕様「オン・ボード・ダイアグノーシス(OBD)」「アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)」「車線中央維持技術」などにアクセスして操縦可能にするプラグ。Comma.aiオフィシャル装着ガイド・ビデオ)
図4:Comma.aiの着装可能なクルマブランド
出所)Comma.ai
参考:YouTube動画“Tesla「AutoPilot」とComma「OpenPilot」の乗り心地比較”
筆者がComma.aiに注目し、紹介した背景は以下である。
- ハッカー起業らしい、オープンソースで進化を遂げようとしていること(故に利用料がTeslaや既存のクルマ会社のサービスより手軽)。
- レガシー自動車メーカーの自動運転補助は「あらかじめ登録された地図の上(軽いデータ)」が基準であるが、CommaはTeslaと共通して「眼の前の映像(重たいデータ)」が基準であること。
上記の①に関しては「開発進化が早い」「大手サービスより安い」などの眼の前のお得な理由だけでなく、「安全性」に関して今後の動向を注視したい。天才ハッカーが開発したプログラムが、新手のハッカーによって侵略(混乱)されたというオチは「命にかかわる」重たい側の話題として起こり得る。
ChatGPTでの似た話題も含めて、起こり得るハッキングや事故の確率統計を含めた上で、巨大なる安全投資のOSを確認してはじめて「これがデキる(アプリ)」の機能を安心して乗せられる、という法則が存在する。これを大資本側は先行して出資を厚くしており、オープンソースのままでは進まなくなる次を見ておきたい。
上記の②に関しては、①との相反関係にある。確固たる安全や独自性の上に作り上げようとしている既存のクルマメーカーの提供システムは、旧態依然の概念(例:1年前の地図の上=軽いデータ)で成り立たせようとしている。
Comma.aiの登場は「Tesla独占(またはBYDとの2強化)」に、「軽いデータが起点ではない」第三者として風穴を開ける意味合いで産業への関心アンテナを引き上げてくれた価値がある。
■「アドオン+サブスク化」が自動車会社の新しい価値収入
すでに日本ではクルマに関わる機能のサブスクサービスを利用しているユーザーもいるだろう。クルマをデバイスとしてアドオン(追加メニュー)でサブスク化することが、自動車会社の事業レベルでも明るい未来の収益見込みであるとする財務開示も増えて来ている(GM:データサブスク収益を年3兆円超え(250億ドル)を2030年を目標にする)。
単なる、今あるデータを集めた解析を超えた「AI」「超高速・巨大データ」ならではの、新しいガーデンの世界を構築しつつある企業の動きにも「目」を向けていこうとの・・・
続きはMAD MANレポートVol.106(有料購読)にて
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