Vol.104 【コラム】セルフレジの自動化と小売の店頭価値

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7月号の目次>

◎ アドテクCriteoのGDPR制裁金とMediaMathの破産申請

◎「代表執行役社長」の肩書が意図する雇用契約とは

◎【起点観測】Allbirdsの経営はサステナブルか

◎【起点観測】ユニクロは店舗数を増やしているのか

◎【コラム】セルフレジの自動化と小売の店頭価値


【コラム】セルフレジの自動化と小売の店頭価値

■リアル店舗の減少と顧客とのパイプ増大

筆者が行き慣れたユニクロの自由が丘店、目黒駅店、大井町店を3年ぶりに見てみると(現在、東京に出張中)、買い物カゴを置くだけで「ピッ」のセルフレジが減っていることに気づいた。

他社との知財特許の係争の件があることも聞くなか、消費者としての個人的感情ながら、ユニクロスタッフのいつもながらのあのヒューマン対応が「ピッ」というレジの自動化減少の効能として「ありがたい」と思えたくらいだ。ユニクロの「顧客とのパイプづくり」についてはMAD MANレポート読者からの感想を期待する。

■便利は不便の始まりか

話題を「ピッ」の利便性にシフトさせよう。JRや地下鉄の改札での「Suica」や「PASMO」がタクシーやコンビニでも「ピッ」である利便性は筆者も120%歓迎だ。ところが、日本での自動化はガラパゴス仕様で、実はフベン(不便)を押し付ける広がり方であるのが気になる。


図3:訪日中の体験談、筆者のクレジットカードを
受け付けてくれなかった新幹線自動券売機

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出所)筆者撮影(2023年7月東海道新幹線某駅)

 

たとえば、Apple Payの「ピッ」が日本では使えないケースが多々あり、フベンである(使える場所が半数、使えない場所が半数)。極めつけは数万円の新幹線のチケット販売機(一般機だけでなく、クレジットカード専用と記載された販売機 図3)で、VISAもAMEXも、どのクレジットカードを挿入口に入れても「決済できません」の表示でチケットが購入できなくて、驚きを通り越してただただ立ち往生した。

この調子で、中国やアジア、欧米からのインバウンド需要への解放やフベンの解消よりも、SuicaやPayPay、楽天カードなど内国の囲い込み側に人々が順応してしまって「フベンを感じるな」の押し付けに慣れきったのだろう。PayPayの「他社クレカ停止」の話題も、この押し付けマインドの延長線の表れだ。

「ピッ」歓迎の背景はフベンの排除だ。忘れてはならないのが、この「フベン解消=ベンリ」として利用されている日本の自動改札機(ICカード)や自動決済端末でさえもが、約20年の歳月をかけた「売り側の仕様投資」に慣らされた結果だという点だ。「慣れればベンリなので慣れろ」とする、井の中の蛙大海を知らずに感じる。(参照:2001年、Suicaの非接触ICカードを使った出る改札システム誕生

■セルフレジとスローレジ

同じタイミングでMAD MANレポート読者からの話題がリンクしたので、日本の状況の一部としてご紹介しよう。

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「セルフレジにキレる老人」問題どうする? 模索続く大手企業 要注目の「スローレジ」とは
2023629日 ITmedia ビジネスオンライン
出所:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2306/29/news037.html
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「人/時間あたりの売上高や生産性」など、効率化や無人化(省人化)、スピード化に向かうことが経済指標とあおられる「決済」のプロセスに、別の価値を持たせようとする「スローレジ」の取り組みのようだ。筆者が「ピッ」レジではなく、ユニクロの店員の方の決済アシスト(サクッと折りたたんで袋詰め)にありがたいと思えた側の論調だ。

LGBTQ」、「EDI」の概念が日本でも浸透しはじめたが、スーパーなどでの決済システムにおける「ピッ」、「セルフレジ」、「タッチパネル(機械対応)」が「Ageism(エイジズム:高齢者差別)」だとして、米国でも社会課題の議論として取り上げられる。(英単語では「Self-Checkout」と表記する)

人員コスト削減を狙う自動機械化が、実はフベンの解消ではなく「威圧的な不親切」になりかねない様子は、米国も同じだ(多人種である環境や障がいを持つ方の意見を含めて、欧米では議論が多岐に先行している)。


■気持ちはありがたいがネーミングが売り手発想

記事中で紹介される「スローレジ」、「サポートレジ」のネーミングが一見思いやりのようでいて、実は売り手側(店側)起点のネーミングであることに気付く。これらは社内マーケティング用語(=記者発表用語、IR用語)であって、売り側の押し付けに従わせる発想になりがちである。

年配のおじいちゃん、おばあちゃん側に立った用語(キャッチコピー)ならば、「井戸端おしゃべりレジ」、「ヘルパーさんと会話レジ」、「サブちゃんが担当します」など、いろいろ考えられる。姿勢からにじみ出る言葉として、次なる単語を期待したい。

お店に来店させる仕掛け(ポイントやディスカウント、広告などの施策)や、お店での精算時間の短縮(タイムパフォーマンス)、店内での人件費の効率化(セルフレジ・ロボット化・自動化・AI化)を考えるアイデアは、すべて水平思考である(事業側起点、現在をより良く効果的に効率化、P/L利益が中心)。

これらの対比として、目の前の人の生活に垂直に向き合う「Zappos」のコールセンターでの雑談によるユーザー満足度(ファン度)向上の事例や、オンラインペットフード「Chewy」の亡くなったワンちゃんのキャンセル忘れのフードの神対応(2021年11月号 Vol. 84)なども思い出される。「とくし丸」の事例も、過疎地域の方にとって商品1個1個のお買い上げが10円ずつ高くても「フベンの解消」として選択される。お宅にまで買い物かごを届けるというパイプが太く繋がっている。

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過疎地の救世主移動スーパー”大人気販売員の妻と支える夫の二人三脚
2022921日 読売テレビ
出所:https://www.ytv.co.jp/ten/corner/nozokimi/fuj7ukud4cyqcfrl.html
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「そんなご丁寧な事業モデルだと効率性の向上にならない」、「属人的で限界がある」などの言い訳も聞こえるが、事業としてDDS(で、どう、する)の次へのヒントが満載だ。これらのフベン解消のヒントこそが紙芝居側であり、その向こう側には垂直モデルの発想にて巨大テクノロジー企業が後発で飴玉を追いかけてくる。今の現場である店頭は、先行指標として巨大企業が参考にする事例の宝庫である。

■重たい側のデータをめんどうなく繋げられるか

店内における自動化やスローレジなどのアイデアだけでなく、スーパーマーケットを筆頭とした店舗を持つビジネスは以下の発想の転換を考えてみたい。

  • 自社の売り場自社の店頭の我田引水とする発想から
  • ワタシの買い場ワタシのオウチの気持ちへ

前者は、お店(企業)側の立場で来店を待ち構える「売り場(買い場ではなく)」の発想から、「店頭」と呼び込み窓口を称している。実際には課金ができる店内での最後のレジ=いわば「店尾」での稼ぎを期待している。 

後者は、お店(企業)側の「売り」をワタシ(生活者)に選択強要の方式ではなく、ワタシ(生活者)が起点として買う・買わないが決められる自由度がある。生活者が必要なモノやサービスはその時々生まれるので、その時々の気持を助けてくれる(アシストしてくれる)役割がリテーラーの次なる立場となるという発想だ。企業側は「店尾(決済レジ)」での受け身や刈り取りの待ち姿勢ではなく、「店頭よりもさらに向こう側」へ前のめりになって生活者に寄り添う事業が「重たい側のデータ」で広がっている。

デジタル上での施策とやらも、ご近所のユーザーや来店者に「お得なアプリダウンロード」の「決済起点(店尾)」のキャンペーンばかりが目につく。

これらは「来ていただく・アクセスしていただく」の手前勝手に数が増えれば儲かる式の、水平モデルである。スケール化すれば損益分岐点を超えられる効率化施策とも言える。前のめりに(飴玉に向けた)「勝手口へこんにちは」、「家の中でのインフラ活躍」としての提供が少ない。少数は切り捨てるという少しギスギスした感じだ。

DDS(で、どう、する)スーパーやショッピングモールの店頭

生成系AIの話題のおかげですっかり5Gやスマートホーム、IoTという話題の矛先が聞かれなくなったが、密集エリア住居型の日本は、これらの切り口で世界の先行事例になるポテンシャルを持つ。

日本のスーパーマーケットやショッピングモールの店頭(の向こう側)こそが、これらのパイプを太くする、勝手口の玄関につながる「スマートホーム」機能の精鋭フロントとして、飴玉となる重たいデータ側でフベンを解消することが可能だ。

現在の日本のスーパーマーケットやショッピングモール事業側でのセリフは、人が来る(通う)ことを前提とした「来店期待(の効率化)」、「土地(地図データ)を基盤にした街」の軽い側のデータ比重が大きい。

  • 各種生活サービス事業の組み合わせによる付加価値増大
  • 新たな価値創造による地域社会の貢献
  • あなたの街は、駅のショッピングセンターを中心にもっと便利に、もっと素敵に生まれ変わります

ここにMAD MANレポートで伝えている「重たい側のデータ」=人に寄り添う「医療・金融・保険・教育」+「エネルギー」でのサービスとの垂直モデルが加わってくることを期待する。

たとえば、食料品売場の奥で決済カード情報を預かったユーザーには、以下のような「重たい側のデータ」で垂直につながることの一例を挙げる。

  • 医療検診(初診〜緊急ケア、検査、歯科、検眼、聴覚のサービス)を自社事業として提供する(医療テナントの招聘ではなく)。/li>
  • その医療はスーパーマーケットらしく透明性のある価格設定を提示し(価格不安の解消、例:歯の定期検診1回おいくらなど)、地元客に安価な医療センターサービスを提供しつつ、保険が必要な方には保険を自社で提供する。

処方箋薬の「定期宅配(お届け)」は当然としつつ、定期検診とファミリーへのサービス、牛乳やレタスも同じ宅配で・・・


続きはMAD MANレポートVol.104(有料購読)にて


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