<5月号の目次>
◎ テレビ業界の超大物!NBCU のグローバル役員が Twitter へ
◎ ビッグテックの「レイオフ」は成長へのシグナル
◎ Goldman Sachs の BaaS 参入(再掲:2022 年 4 月号 Vol. 89 より)
◎ Apple Card の APY4.15%がもたらす日本経営へのインパクト
◎ Goldman Sachs が提供する Apple Card のプラポリ
◎ Resale-as-a-Service(RaaS)がつくる循環型経済
◎【起点観測】米国 D2C の IPO 企業から見る経済のミカタ
Resale-as-a-Service(RaaS)がつくる循環型経済
ラグジュアリーブランドを含むアパレル/ファッション、シューズ、アウトドア用品におけるリセール市場(オフプライス品・中古品販売)が、外出自粛の影響も後押ししたことで一気に成長軌道に向かっている。
特に、Generation Z(Z世代)の新品への執着は低く、むしろ中古品市場の方がカッコいい、新品よりも良いとする傾向まである(図1参照)。さらに新規参入事業者も増えて、マーケットとしての確立も進んでいる。グローバルの市場規模は、現在の3.6兆円(280億ドル)から2024年には2倍以上の8.3兆円(640億ドル)とも予測される成長カテゴリーだ。
■勝ち組と負け組の識別
リセールの先頭プレーヤーとしてIPOさせた「The RealReal」を事例に、本章で紹介する事業形態の「RaaS(Resale-as-a-Service)」との対比にて解説をする。
The RealRealは現在約320億円(2.44億ドル)の債務超過状態で、株価は上場時の役29ドルから現在は1ドル台で低迷。さらに2022年6月には創業者のジュリー・ウェインライトCEOが突然辞任、現在はCEO不在のままの事業運営が続いている。
同じリセール事業でも、The RealRealはB2C型事業で顧客(セラーとバイヤー)を引き付けるために実店舗を利用するビジネスモデルだ。全米19店舗(2019年当時)で、商品の仕入れ購入から在庫管理、販売を行う。店舗が起点ならば、多額の資本と店舗運営費を要するはずだ。
たとえば、2022年のThe RealRealのGross Profit(粗利益)が約450億円(3.49億ドル)に対して、営業経費はその1.5倍の約700億円(5.39億ドル)を必要とする土台で、差し引き250億円の赤字という構造だ(従業員7%レイオフ、旗艦店閉鎖などの後手も報じられている)。
■RaaSはB2B型事業モデル
本章では、後述する「Reflaunt」や「Trove」などに代表される、ブランド企業を尊重しつつ、リセールサイトの運営と在庫販売を支援する「RaaS-B2B型事業モデル」が市場を牽引しているという事例の紹介だ。事業の起点が自社店舗ではなく、オンライン=RaaSの提供、そして顧客の起点がB2Cではなく、B2Bという視点だ。
旧来のリセール事業モデルは、店舗を活用して自社で鑑定し、商品を仕入れ、自社で販売して利益を獲得するという方法が主流だった。このモデルで集めるべき顧客とは、B2Cの消費者である。そして、B2Cの顧客に対して在庫集めの認知を拡大させてユーズド品を買い上げ、店舗の看板に頼りにリセール販売し、その看板の評判を安定させるモデルであった。
この場合のKPIである「店舗1平方フィートあたりの売上高」や「クリック数」を稼ぐために、一等地にフラッグシップ店を開設し、CPM効率の良いオンライン広告を出してリアル店舗とオンライン流通の両輪を維持する必要がある。そのコストを覚悟するという方法だ。
■一次市場と中古市場の垂直融合
旧来のリセールに関する課題は、リユース品(中古)を扱うマーケットプレイス型ビジネスモデルと、一次市場のブランド企業(GucciやNike、Balenciagaなど)との間に大きな垣根(分離)が存在していることだった。2019年頃まではこれが定番の課題だった。
ブランド企業側としては、リユースが地球に優しいと言われようとも「ブランド価値の毀損」や「自社のブランド価値を食い物にしている」という概念で敵対視していた。この状態を反転させ、むしろ好意的な意識になったのがB2B型事業モデルのRaaSで、2019年から成長市場となっている。
一次市場のブランド側が自らリユース市場に取り組めば、顧客の循環や顧客との粘着性だけでなく、エントリーレベルの新規顧客(ファン)が増えることに気づき、RaaS型ビジネスが最終的な「顧客の生涯価値(LTV)」を増大させる魔法の箱になりえる。
ブランド側はこれまでリセール事業主が商品を再販しても自社の利益を実感できなかったが、RaaSというテクノロジー概念が「コロンブスの卵」として問題解決を提供した形だ。
■RaaS事業が提供するマイアカウントの高付加価値化
各事業者で多少のビジネスモデルの違いはあれど、RaaSで括られる事業主はGucciなどのブランド企業へB2Bサービスを提供する役目だ。B2C起点のカスタマージャーニーを描く事業ではなく、B2B起点でブランド側の事業での「流通ジャーニー」の上に「再販」のプロセスを組み込む事で、あらたな「循環ジャーニー」を提供する事業だ。
ブランド企業には、自社サイトのアカウントを持つユーザーや店舗を通じて繋がっている顧客(ファン)が存在する。このマイアカウントを持つユーザーに対してのリセール機会を、RaaS企業がテクノロジーで間を取り持つことでブランド側にB2B事業として提供している。
マイアカウントには、ユーザー自身の購買履歴がすべて蓄積されているマイデータが存在する。RaaS企業がこのマイデータに「再販ボタン機能」をAPIで提供すれば、これまでに購買したブランド品の山が一気にマイアカウント上で「オンライン・クローゼット」に変身できる。
さらに言えば、そのなかにニセモノブランドは存在しない。これは大きなアドバンテージだ。再販という事業には真贋鑑定の見極めや立証のやっかいさがつきまとうが、一次市場のブランド企業のマイアカウントにある商品の買い取りであれば、真贋鑑定のプロセスを省略できる。(参考:The RealRealでの真贋クレームによる集団訴訟を14億円で和解)
■自分のクローゼットのオンライン化
RaaS企業としては、各ブランド企業のオンラインユーザーに対してリセール(再販)機能を付与することで、買ったきり(買って終わり)のブランドと顧客の関係性から購入商品をキッカケに再びブランドに戻って来てくれる「太いパイプ(接点)」も提供できる。
顧客側も「10万円で買ったブランド品を、仮に3万円で下取りしてくれるなら実際のコストは7万円になる」という認識が生まれて、次の購買に弾みがつく(ブランド品に傷が付かないように丁寧に扱う気概も生まれる)。
RaaS企業とブランド企業は、ユーザーの「オンライン・クローゼット」のクリック一つで「商品の引き取りから再販売まで」のロジスティクスを請け負う。RaaS企業がブランド企業から預かった再販商品の販売は、オンラインマーケットプレイス経由で世界中へ公開されて売り出す手配がおこなわれる(例:Vestiaire Collective、VIDE Dressing など)。
マーケットプレイス側からみても、これらの商品在庫は「ホンモノ」の商品入荷として歓迎される。ブランド側からみれば、良い意味合いで気づかなかったリーチが拡大できるので、まさにWin-Winの関係だ。
■ディストリビューション・チャネルは国境を超える
RaaS企業の大手ブランドに対するプロセスの提供は、単なるテックだけではなく、細かい労働集約の作業も含む。たとえば、顧客からの下取り(単一SKUの識別・鑑定・写真撮影・状態評価・値付け)、サイト構築とメンテナンス、顧客データの収集・分析・報告などを可能にした上で「ブランド再販プログラム」としてTradesy(Vestiaire Collectiveが買収)など数十のグローバル再販サイトへ提供する。
一見すると、かなり労働集約的な作業だ。考えたいのは、店舗を起点とするリセール事業よりも倉庫起点(オンライン起点/Amazon型)でゼロ構築する事業は、集約化による効率がはるかに高いことだ。
グローバル下でのテクノロジーの醍醐味は、「再販マーケットプレイス」経由でブランドを購入した「未知の新たなファン」がグローバルで膨らむ可能性を持つことだ。これがRaaS事業をトキメかせている、デジタルならではの面白さだろう。
■ファクトリー・アウトレットの功罪
余談として、プレミアムブランドやラグジュアリーブランドが「ファクトリー・アウトレット」として、アウトレット市場を想定した量販用の準ブランドを製造するという事例が過去にあった(例:CoachやRalph Lauren など)。
これぞ自社ブランドの価値毀損なのだが、売れてしまう売上高とのトレードオフとして黙認されてきたようだ。本章のリセールの循環が正しく認識されれば、自社ブランドの認証による再販モデルを基準にして、ブランドの伝統や品質、資産価値を長く保つためにしっかり作って提供しようという新たな意識も生まれるだろう。
■循環型の意味合いは「サステナ」よりも「顧客とのパイプ」
本章ではあえて、Circular Economy(循環型経済)やサステナブル、SDGs、ESG経営や地球環境などの話題を横にして「循環型」の意味合いを考えたい。
仮にGucciやNikeなどのブランドのファンが、各公式サイトから購入したマイリストをブランドの保証付きで再販リセールができるならば。購入した顧客がまた戻ってくるどころか、LTVが高まり、これまで逃していた顧客の新たな購買、これまで知らなかった顧客の広がりを生むエコシステムが自社発で築ける。
この循環構造を一次市場のブランド側に気づかせたのが、リセール出発のテクノロジーのRaaS事業モデルだ。以下、RaaS企業の一部(図2参照)とそのB2B取引先を紹介しよう。まだまだ大手企業というところまでには成長していないが、筆者としては、B2B顧客、集める資本、販売市場がすべて国境超え(国境に閉じない)という視点で、ぐるぐる廻って成長できる部分に注目したい。これらの外資企業が日本市場の良品ブランドを世界に展開させる事業所が、すでに日本にも進出済みではないだろうか。
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Reflaunt(リフロント) • 拠点:英国系、本社シンガポール、 • 設立年:2017年 • 調達資金:シリーズA 1,200万ドル • 出資者:Piquadro、Global Blue、Ventech China
<B2B接続パートナー>
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Trove(旧社名:Yardle) • 拠点:Brisbane, California • 設立年:2012年 • 調達資金:シリーズD 1.23億ドル • 出資者:Piquadro, Giovanna Battaglia Engelbert 他
<B2B接続パートナー>
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Archive • 拠点:San Francisco • 設立年:2021年 • 調達資金:シリーズA 合計2,430万ドル • 出資者:Lightspeed Ventures、Bain Capital
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Floor Found • 拠点:テキサス • 設立年:2020年 • 調達資金:シリーズA 合計1,520万ドル • 出資者:Gradient Ventures, Jump Capital 他
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Responsible • 拠点:Belfast、英国 • 設立年:2021年 • 調達資金:シードラウンド 660万ドル • 出資者:Barclays Corporate Banking 他
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Recurate • 拠点:Washington D.C. • 設立年:2020年 • 調達資金:シリーズA 合計1,740万ドル • 出資者:Gradient Ventures, Jump Capital 他
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旧来の店舗は、リアルの地代運営費がボトルネックになり・・・
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