<2月号の目次>
◎【NY出張コラム】TargetのPB戦略から考えるこれからのリテールに求められる顧客体験
◎ ChatGPTとラーメン屋とエクサスケール
◎ トヨタ新会長(豊田章男氏)のイズムを応援
◎【起点観測】Googleは収益37兆円で営業利益9.7兆円
◎【起点観測】AWSの営業利益3兆円でECの赤字1.4兆円をカバー
◎【起点観測】5G通信アンテナの設置の進捗
◎【コラム】世界はどこから稼いでいるのか
【NY出張コラム】TargetのPB戦略から考えるこれからのリテールに求められる顧客体験
2023年1月中旬、BICPの森国&川本コンビは全米小売業協会(The National Retail Federation)主催の「NRF 2023 Retail’s Big Show」(以下、NRF)へ参加し、ニューヨーク、ニュージャージーのリテール店舗の視察をおこなった。森国は休暇を利用してニューヨーク滞在直前にテキサスも訪れたので、その気づきも補足として加える。
今回の視察では、米国の3州でGMSや食品スーパー、百貨店、ドラッグストア、家電量販店、ホームセンター、SOHO周辺のD2Cブランド、新興ブランドの路面店などなど、合わせて60店舗以上を見て回った。
視察訪問したリテール店舗は以下の通り。
図1:視察で訪問したリテール各社、都市/郊外含め30店舗
出所)各社の公式HPより
■リテール視察で得られた3つの視点
今回の視察では3つの大きな気づきを得た。1つ目は、店舗写真を見ただけではどこの店舗か判別できない、没個性で画一的な店舗デザインの日本のリテールとは異なり、米国ではリテールごとに独自の特色を強く打ち出していること。
2つ目は、プライベートブランド(PB)商品の比率が高いこと。日本の多くのPBのように「コスパ」を打ち出すものだけではなく、サステナブルや安全性、フェアトレード、ダイバーシティーなど、リテールが独自に設けた基準に沿ってPBが開発・販売されている。
3つ目は、各社がオリジナリティのある店舗設計やPB商品を開発・販売することで、ポジショニングが明確になっていること。競合との違いや独自の提供価値(バリュープロポジション)が確立されることで、顧客の獲得につながっている。
図2:視察で訪問したブランド各社、都市/郊外含め40店舗
出所)各社の公式HPより
本章では、上記の3つの視点に基づいて「Target」を事例に考察する。
■NRF 2023キーノートで語られたこと
NRF2023は、75カ国から35,000人以上が参加し、1,000社の出展、175のセッションに350名のスピーカーが登壇するものであった。 そのなかで、CxOクラスが登壇するキーノートスピーチを中心にNRF2023を振り返ってみたい。
本年のNRFのテーマは「Breakthrough」。オープニングキーノートを担当したNRF会長で「Walmart」北米CEOのジョン・ファーナー氏は、次のように述べている。「コロナ禍からは抜け出しつつあるが、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発したサプライチェーンの問題や世界的なインフレと景気後退など、全世界のリテール各社は歴史的な課題に直面している。この難しい局面を乗り越えるためにも、イノベーションを起こし、顧客体験を向上させ続けることが重要である。この困難な状況下でも、災害時の地域支援をおこなったこと、また業界の成長による雇用創出など、地域コミュニティへの貢献をおこなってきたことは誇るべきこと。リテールに関わるさまざまな人々がこの変化にオープンであり続ければ、より多くのことを達成できる。」と。
この後のキーノートスピーチでは、「インフレと景気後退の懸念はあるが、変化を止めるべきではない、更なる顧客体験の向上、地域コミュニティへの貢献」など、ジョン・ファーナーCEOのキーノートに沿う内容のものに加えて、サステナブル、ダイバーシティーや企業カルチャーの大切さ、それら企業が大切にする価値観のもと、従業員の具体的行動への賛辞や従業員満足度を語るものが多かった。
彼らのスピーチは、先行きが見えない時代に自社の従業員やパートナー企業に対して自社が向かうべき方向性を指し示すとともに、同じ方向に向かって歩み続けるために結束を呼びかけている、と感じた。つまりNRFのキーノートスピーチを通じて、社員やステークホルダーにメッセージを発しているという印象である。
Targetのキーノートスピーチは「The future of retail leadership」と題して、ブライアン・コーネルCEOとクリスティーナ・ヘニントン氏、カーラ・シルベスター氏、キエラ・フェルナンデス氏、アレクシス・シェパート氏の4名の女性役員が登壇し、企業カルチャーの重要性と企業文化についてのディスカッションだった。
そこで語られていたことを要約すると以下の通りである。
今回視察した「Target」、「Trader Joe’s」、「Wegmans」などは、店舗設計やPB商品に独自性がある。その背景には、企業の理念や文化、価値観があり、それらを戦略に落とし込み、実行された際に独自の顧客体験として現れている結果ではないかと、視察を通して感じた。
■Targetの店舗戦略とPB戦略を紐解く
先述した通り、今回の視察では60店舗以上のリテールを視察したが、本章ではTargetを中心にお伝えする。Targetは化粧品から日用品、家具、家電、アパレル、食品まで販売するGMSであり、食品・日用品のリテールとしては、「Walmart」、「Amazon」、「Costco」、「Kroger」、「Walgreens」に続き、米国第6位のリテールだ。そして、パンデミック下で成長した企業の一つでもある。2010年代の低迷の後、CEOに就任したブライアン・コーネル氏の再建で2019年から、売上、営業利益ともに成長してきた。
2021年の決算では、売上が1,060億ドル(13兆7800億円)と13.3%増加し(2020年の売上は前年比19.7%増)、営業利益率も2020年の6.9%から8.4%まで上昇(2018年は5.4%だった)している。
2017年に新たなマーケティング戦略のもと、3年間で70億ドル以上の投資を行い、以下を実行すると発表した。
これらの戦略が現在のTargetの成長を支えている。現在では57種類のPBがあり(Targetはそれらを「Owned brands」と呼んでいる)、さらに店舗のリニューアルも進めて店内ディスプレイの改修に留まらず、店頭ピックアップやカーブサイドピックアップへの対応、Ulta BeautyやDisneyなどのShop-in-Shopの展開もおこなっている。また、都心部では小型店舗、都心に近い郊外では中規模店、郊外では大型店と立地や客層に合わせて店舗サイズやデザイン、マーチャンダイジング(MD)を最適化させている。
ここではまず地域に応じた出店規模や商品カテゴリーの選定の違いを、テキサス、ニュージャージー、ニューヨークの店舗視察から解説する。その上でPB商品や「Target Clean」と命名したセレクトブランドを販売するTargetのPB商品戦略を理解していこう。
■Targetの店舗戦略は地域性とフルフィルメントを重視
図3は、テキサス州フリスコにある「Super Target」。敷地面積が約200,000平方フィート(約18,580平方メートル)で、東京ドーム0.4個分である。
図3:「Super Target」手前のテント周辺はカーブサイドピックアップのエリア
通常のターゲットの敷地面積は130,000平方フィート(約12,000平方メートル)で、Super Targetはその1.5倍の広さとなる。
アパレルエリアが少し広く感じるが、家具、化粧品・日用品、食品など広々としたスペースで陳列され、どのジャンルも十分過ぎるほどの品揃えだ。特に、Super Targetでは、他のエリアで見たTargetよりも食品コーナーが充実している。もちろん、食品を中心とするKrogerの規模には及ばないものの、果物、野菜、肉類などの生鮮食品から加工品や冷凍食品、ドリンクまで幅広く手に入り、日本の一般的な食品スーパーと同様の品揃えと考えてもらって良い。日本の生活者でもSuper Targetの食品の品揃えであれば特に不満はないだろう。
図4:Super Targetの食品売り場は広い。生鮮食品から加工品、デリまである。
出所)Target ホームページより
一方、ニュージャージー州クリフトンのTargetは130,000平方フィート(約12,000平米)とSuper Targetよりも敷地面積が狭い。食品コーナーはSuper Targetと比較すると小さく、生鮮食品は限られた種類の果物・野菜類のみで、加工食品や冷凍食品が多くを占める。日本であればこの品揃えではGMSの食品コーナーとしては成立しない内容である。
このターゲットとショッピンセンター内には「Stop&Shop」という食品スーパーがあり、600メートルに先にはCostco、2.4km先にはTrader Joe’sがある。それ以外にも数キロ圏内に複数のスーパーマーケットがあるのが分かる。
図5:クリフトンのTargetの食品コーナーは冷凍食品が多い
出所)Google Maps&筆者撮影
こうした競合が多い立地条件も食品コーナーの品揃えに影響を与えているかもしれない。ちなみにSuper Targetの敷地面積は200,000平方フィート、Targetは130,000平方フィートとそれぞれフォーマット化されたサイズであり、それぞれの店舗をGoogle Mapで確認したところその通りのサイズであった。
また、Super Target、Targetともに入口から入るとセンターはアパレル、左側は生活雑貨や家具、中央奥は家電やゲーム、アパレルの右側に化粧品や日用品、ドラッグ、そして右奥に食品というのが、筆者が見た限りの基本フォーマットだ。
図6:イーストビレッジの「Target」日本の小ぶりな食品スーパー並みのSKU。日用品は地下にある。
出所)筆者撮影
■地域性に応じて展開する都心部のTarget
最近出店を増やしている都心部を見てみると、マンハッタンの住居街のイーストビレッジのTargetは地下1階、地上1階の構造であるが、1フロア1,100平米、2フロアで2,200平米程度と思われる(雑居ビルの間借りなのでGoogle Mapでは計測が難しい)。
1階はアパレルとレジ、ピックアップカウンターと食品コーナー、地下は化粧品や日用品で占められており、食品コーナーは日本より生鮮食品は少ないが食品全体の品数だけを見ると小ぶりなローカル食品スーパー程度の品揃えはあり、地下1階も日本のドラッグストア並みの品揃えである。近隣住民が徒歩圏内で日常的な買い物をおこなうのに最低限の量は揃っていると感じる。
一方、同じくマンハッタンでもSOHOのTargetはイーストビレッジ同様、地上1階、地下1階であるが、フロア面積は1フロア720平米程度で、2フロアで1,440平米。
1階は化粧品や日用品がメインで、地下1階は加工品を中心とした食品コーナーがあり、生活雑貨やなぜかDYIコーナーもあった。ここはファッションストリートであることを考えると、化粧品をメインに扱いその他は日本のコンビニ感覚で食品や日用品を購入する店ではないかと考えられる。
図7:SOHOのTarget。1階は美容系。食品は地下にある
(生鮮食品は果物程度、加工品中心で日本人的には広くて品揃え豊富なコンビニという印象)
出所)筆者撮影
■郊外型店舗と都心型店舗と新型フォーマット
このように郊外型店舗では、Super TargetやTargetなどフォーマット化された店舗サイズと商品カテゴリーのレイアウトがあるが、都心部は地域性に応じて注力する商品カテゴリーや商品ラインナップを大きく変えている。
今後、新設されるTargetは従来の店舗フォーマットサイズである130,000平方フィートから20,000平方フィートほど大きくした、150,000平方フィートにすると発表している。
Targetのプレスリリースによれば、この新型フォーマットの店舗はバックルームのフルフィルメントスペースを従来よりも5倍広くするとのこと。これは、オンライン注文の95%を店舗で処理しており、売上の10%が「Same-day Service」と呼ばれる「即日配送」、「カーブサイドピックアップ」、「店頭ピックアップ」となっていることが背景に・・・
続きはMAD MANレポートVol.99(有料購読)にて
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