<9月号の目次>
◎ 画像生成AI「Stable Diffusion」のプロンプト学習
◎ 2022年版Googleが撤退したビジネスこそチャンス
◎ Starlinkと衛星コンステレーションから始めるデータへの意識
◎ D2C「中古車自動販売機」Carvanaの次のステップ
◎ MAD MANが気になったコラムセレクション
・トヨタの自動車電池の生産投資額は「おおきい」のか
・米国D2Cブランドの2022年第2四半期のキテカン
・日本でのMicrosoft+Netflixの座組についてMAD MANからみた関心事リスト
Starlinkと衛星コンステレーションから始めるデータへの意識
本章の話題は「Starlink」、「通信衛星&宇宙」という一見広大そうだが、実は身近なテーマへのアンテナ上げだ。MAD MANレポートの目線で身近に降り掛かってきている話題としてお届けする。
(あの)有名社長のおかげで、日本では宇宙と言えば「旅行」に意識が飛びがちだが、本章は「旅行」ではなく「通信・データ」が本命だ。表題の衛星コンステレーションの単語を取り出し、「新」暗記用語として検索とメモのご準備を。
(参考:Starlink is a satellite internet constellation operated by SpaceX )
Starlinkは、イーロン・マスク率いるロケット&衛星事業の「Space X」社による衛星ブロードバンド(インターネット)の事業ブランド名として聞き覚えがあろう。すでに世界36ヶ国でサービスを利用でき、地球上空にすでに3,000機(!)が飛び回っている事業であることに気づいておきたい(図1参照)。(参考:全世界でのサービスが利用可能な国のMap)
図1: Starlinkを始めとした通信衛星の位置をトラッキンするアプリの一つ「Satellite Tracker」
出所)筆者のiPhoneのスクリーンショット(アプリはStarwalk.space)
「Wi-Fi通信が衛星経由で個人にもそろそろ届くかもね」との想像は容易だ。別に衛星回線でなくても「ドコモ光10ギガ」の方が早くて安い、というような身近な解釈に落ち着ついてしまう前に、もう少し先を推して見る趣旨だ。
図2:Starlinkのオフィシャルページ(Google 翻訳済み)
出所)Starlink
■費用対効果で考えるなかれ「月額1万円の衛星通信」
図2のStarlinkの米国市場での稼働料金(2022年9月)は、ざっくり下記の通りだ。
- 月額約14,000円(110ドル)の衛星インターネット(下り約150〜100Mbps)
- 初期費用として、アンテナ購入費が約78,000円(600ドル)
身のまわりのWi-Fiサービス利用との比較で考えれば、「まだまだ(比較にもならない)」と思ってしまう(笑)。この笑ってしまうかもの基点こそが、本章のご紹介ポイント(ツボ)だ。
「まだまだ」と追いやっていた「お空」の通信事業が世界では競合事業も多数登場し、イーロン・マスクの事業だけを取り上げても、上記の加入条件でどんどんと「地表の身近」に近づいている。その数字は以下のように広げられている。
- Starlink衛星が3,000機が飛び(2022年9月時点)
- 月額110ドル支払うサブスクが、米国だけで70万件以上(2021年2月から2022年9月までの1年半の期間の累積)
SpaceX/Starlinkは米国政府「FCC(米国連邦通信委員会)」の許認可を受けた、イチオシ事業だ。単なる「通信」の水平カテゴリーの拡大(目標12,000機)では済まない、産業の垂直統合のインパクトがすでに見えてきた。
図3はStarlinkの利用に必要な衛星電波受信のアンテナの写真だ。このアンテナの初期投資は600ドル。都市部のユーザーには一見「無駄」なハードウェアに見えるが、これも「一時的な」モデムのようなもので、いずれ不要になる。現在は大自然を走るRV車ユーザーの需要が多い。
■日本の通信企業も衛星Wi-Fiに投資済み
日本ではKDDIがStarlinkと業務提携を2021年9月に発表しているが、その内容は「これまでは光ファイバーの敷設が難しかった山間部や島しょ地域などでもauの高速通信を提供可能なau基地局を構築することができる」点が強調されている。基幹通信網(すでに持つ回線)があった上での、補助的なバックホール役(ワクワクの少ない役)として「山間部に水平を付け足す」形でのスタートだ。
通信の最大手NTTも、スカパーJSATと「宇宙統合コンピューティング」「宇宙センシング+データセンター+RAN」事業を2021年5月に発表している(同じくワクワクが少ない)。
ソフトバンク・グループは、米国の「OneWeb」に積極的に約2,000億円(当時の19億ドル)を出資していた(2020年3月破産法申請)。米国Skylo Technologies、HAPSモバイル(Alphabetの子会社のLoonが保有する)などに出資して、「非地上系ネットワーク(NTN)」のサービスを目指しているようだ。
- 図4:ソフトバンクGの「非地上系ネットワーク」の説明資料
衛星が上空何kmを飛んでいるのかの参考図、図5の数値と連動している。
出所)日経クロステック 2021年6月
楽天は、米AST & Science, LLC(米国テキサス州)へ、リードインベスターとして出資し(2020年3月)、「宇宙から送信するモバイルブロードバンドネットワークの構築により、地球上における携帯電話サービスの提供エリア拡大を目指します。」としている。発表時の出資規模は約160億円規模(1.28億ドル)程度(!)だった。
「そりゃ通信大手企業なら手を広げて当然でしょ」と片付けず、この機会にこそ、産業を「垂直」に考えてみよう(これはMAD MAN頻出単語)。
まずは、この(通信)衛星事業を日本の通信事業各社が水平に小口でちょぼちょぼ広げていて間に合うのかが気になる。SpaceXの事業を筆頭に異分野事業と考えていても、垂直のドカンとした縦につなげようとしている今の世界の大きな動きは気づいておきたい。
■過去の衛星と何が違うのか
Starlinkの衛星が、台風情報でおなじみの「気象衛星ひまわり」や「スカパー」「Google Earth」などの既存の宇宙衛星と何が新しく違うのだろう。その違いはStarlink(ら)の衛星の軌道が「低軌道」である点だ。
MAD MAN流のやわらかい解説をお許しいただきたいが、「地球低軌道(Low Earth Orbit=LEO)」という概念が、旧来の静止衛星との大きな違いだ。地球表面から2,000km以下の軌道を周回している衛星が「低軌道衛星」と呼ばれる(なにその2,000kmって…)。
このStarlinkが新しく広まっているのは、「宇宙のかなたを走るこれまでの衛星(上空36,000km)」ではなく、地球の表面近く(約500km)を網羅して走るので、これまでより地表に約72分の1の近距離にグイッと近づくことにより、通信速度が実用レベルで格段に速くなる、という新しいサービスだからである。
まるで「36メートル先の人との距離の会話が50センチに近づく」感のサービスと連想してはどうだろう。
裏返すとStarlinkは、至近距離(500km)である分、衛星1機のカバー範囲が狭くなり、数千個規模の打ち上げにより各機の連携でネットワークを作らなければならないため、その維持費がかかる。このマイナスリスクを引き換えとして、巨額の投資と気力で乗り越え始めた点がStarlinkが特筆される点だ(目標12,000機)。
ちなみに、飛行機に乗った時の「ただいま高度10,000メートル上空を…」というアナウンスは覚えているだろう。飛行機の高度はおよそ10km程だ。
- 図5:地球の直径と「高軌道」「低軌道」の差をイメージ化した図
・地球の直径が約12,000kmに対して
・黄色の高軌道衛星は36,000kmの上空
・水色の低軌道衛星は500kmの上空
(=Starlinkの投資エリア)
地球との距離感と、その差が生み出すカバー領域の違いがイメージできる。
出所)Wikipediaの図に筆者加筆
■総務省が説明する「衛星コンステレーション」
技術的なことは、専門資料にお任せして下記資料の一読をお願いしよう。
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Beyond 5G の実現に向けた、宇宙ネットワークに関する技術戦略について
2022年(令和4年)1月 総務省
「1. 衛星コンステレーション 国内外の動向」
出所:https://www.soumu.go.jp/main_content/000790343.pdf
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■もしも長距離海底ケーブル通信が衛星経由になるならば
現在の「クラウド」事業が一転する可能性を秘めている。Amazon (AWS)、Microsft(Azure)が世界市場の55%を握るクラウド事業は、投資済みの世界各地の「地上のサーバー」を、光ケーブル経由で海底を経由して、データをあたかも「雲(クラウド)」のごとく、つなぎ合わせている。
技術専門家のみなさんからは、現時点でのコストや技術からのお叱りを受ける覚悟で、「数年後のありえる未来」に向けたデータが、ほんとうに雲の上から降ってくるイメージが描ける。次のビジネスを想像する例えとして次の連想に使ってみた。
- 図6:左)AmazonのAWSがNetflix用にオーストラリア配信で選んだ海底ケーブルのルート(2016年)
右)NetflixがAWSを使った「Netflix Open Connect」として説明する様子(2016年)
出所)左:DataCenterKnowledge・右:Netflix
■Netflixの世界配信を衛星経由の身近な例として(桶屋が儲かる式)
たとえば、Netflixの現在のコンテンツ配信の土台は、AmazonのAWSの海底ケーブルインフラを経由している(図6参照。MAD MANレポート読者は既知のこと)。
2022年に湧いたホットな直近話題として、「Netflixが(手のひらを返して)」広告配信による割安メニュー事業」を発表している(=より世界に薄く広くリーチを求める事業転換)。
何と、そのNetflixの広告配信の「担当者」としてMicrosoft社が任命された。この納得の縁組は、Microsoftがこの前年(2021年)に、AT&Tから広告配信の老舗とも言える「AppNexus+Xandrをあらかじめ買収済み」だったという引き金がある(「薄く広く」のひな壇は準備済みだった)。いわば水平「アプリレベル」ではすでに準備が整っていた塩梅だ。
これらのサービスレベルを「アプリの水平準備」と例えるならば、その後ろのインフラ準備の組み合わせを考えるのが垂直事業の醍醐味だ。さぞかし「取り合い」「囲い込み」が始まる。
現在のNetflixはAWSの海底ケーブルを使っているが、MicrosoftはTeslaと宇宙ネットワークにおいて契約済みだ。Amazonベゾス氏も当然動き始めているが、かなり後発だ(下記整理)。衛星通信において、Amazonさんが後発である状況(ここ、ポイント)は、容易に騒がしい状況に発展するのが予想できる。
■巨大資本による「衛星データ」投資の主な事業
- Microsoft:Azure Obital Space Xと直接接続の契約
- Amazon:Blue Orijin、Project Kuiper ジェフ・ベゾス氏の個人投資
- Alphabet:2021年にStarlinkと契約記事が登場するも、その後IR報告無し
- Tesla:SpaceX/Starlink この構想に、マスク氏とTeslaお得意の「データ」と「電力」「金融」が要素として加わるとどうなるか。
- SES:欧州発の衛星ブロードバンド配信企業、Space Xと共同打上げ契約(図11にて紹介)
■MicrosoftやAmazonの「衛星データ」の動き
上記の項目を、次ページ以降にイメージ図として並べた(URL付き)。読者それぞれが「衛星データ」に向けた、読者によるノンフィクション作りの材料と・・・
続きはMAD MANレポートVol.94(有料購読)にて
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