<6月号の目次>
◎Appleによる一連のプライバシー・コマーシャルの行間
◎NetflixとDisneyのサブスク広告夜明け前-NBCユニバーサルによるTVエコシステム120社へのRFP取材
◎【起点観測】グローバルランキングで見るエージェンシーの顔ぶれ
◎【起点観測】気になる「ジェネレーションβ」の呼称
◎NetflixとDisneyが切り開く視聴率の入口と、Amazonの先回り出口について
Appleによる一連のプライバシー・コマーシャルの行間
図1はAppleによる「プライバシー」を題材にした、世界一斉放映のテレビ&オンラインでのコマーシャルシリーズで、MAD MANレポート読者もすでにご覧になったであろう。米国での90秒シリーズに見慣れた筆者は、この日本語版カットの30秒コマーシャルをみて、ちょっと「ぎょっ」としたので、日本の読者へ気持ちを打診したい。日本語版の30秒コマーシャルは「プライバシーが売られているよ」という脅しが、ちょいとキツく思えるのだが、どうだろうか。
米国の90秒版はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=NOXK4EVFmJY
このクリエイティブ・シリーズを展開しているAppleも、シリーズで制作を担う広告会社の「TBWA\Media Arts Lab」も、オリジナルの「90秒版」が起点にある。この90秒版を見てもらえれば、ほのかに柔らかいトーンが含まれているので、「Appleの企業ブランド」として「いいよねぇ」と承認されたプロセスも想像できる。
ちなみに、90秒版のストーリーの出だしはノスタルジックなレコード屋の場面設定で、主人公のEllieがLPレコードのジャケットを見ているシーンから始まる。最終的に、Ellie=消費者は「勝者」になる結末だが、途中のシーンで不安から徐々に笑顔に変わっていくシーンも盛り込まれている(緊張がほぐれている)。
図2:Appleが2021年4月に公開したプライバシーに関する「わかりやすい」説明
出所)Apple
■Appleのわかりやすい基本姿勢が見える2021年のレポート
企業による「正当防衛的」で難解なプライバシーポリシーを掲載するだけでなく、いかに「(子ども世代でも)わかりやすく理解してもらうか」という観点に立ってAppleは動く。
その手段・方法をテレビ・ビデオのコマーシャルの制作&放映だけでなく、図2のような「父と娘のストーリー」を例にして説明する資料を公開している。資料の冒頭では、歴史をさかのぼること「2010年」当時の「スティーブ・ジョブズの名言」(図 2下参照)で始まっている(ぜひ、お読みください)。
この資料が発刊された2021年4月は、AppleがIDFAに関してオプトイン方式のみにする「制限」をかけた時期だ。無許可(無意識)のトラッキングを今後は制御する(止める)というAppleの企業行動と同時に、「その理由はなぜ」をわかりやすく説明するための資料公開だった。
■AppleのiPhoneプライバシー 過去のシリーズ例
図1のコマーシャルが突如湧いたわけでなく、一連のシリーズも読者の記憶にあろうから、その過去の復習として以下に紹介する。
いずれも時間は、30秒以上(約60秒)で公開されている。日本のテレビ放映の広告枠の基本が「30秒/15秒」という市場背景も手伝い、日本ではどうも「ストーリーよりもパンチ(インパクト)」に価値の比重が移りやすい。この日本のデフォルトの市場環境は、広告メッセージにおいては(ニュースにおいても)、短絡的な情報が人々へのメッセージとして投影されがちである可能性には気づいておこう。
「DDS(で、どう、する)」を日本で応用するなら、たとえば、あえて90秒版のプライバシー主張のコマーシャルメッセージを登場させる企業もあるかもしれない。あるいは図2のような、わかりやすい説明手法でのファイル公開は、マンガ文化のある日本なら「得意技」ではないか。SDGsの17個のロゴを単に貼り付けている企業サイトよりも、よほど工夫のしどころがありそうだ。
図3:アイルランドの人権保護団体ICCLが発表した、RTB入札における個人データの拡散状況の報告書
出所)ICCL
■冷静に考え始めたいRTB広告入札による個人データの「バラマキ」
偶然だろうが、このAppleのコマーシャルと同じ5月にアイルランドを拠点とする独立系の人権保護団体「ICCL※」が、欧米市場でのオンラインRTB入札の「個人データのバラマキ度合い(英語では「Auction broadcasts」と表現)」を報告している(図3参照、PDFリンクはこちらより)。
(※The Irish Council for Civil Liberties)
このレポートによると、RTB業界が個人のオンライン上の行動履歴と位置情報を1人1日平均で、米国では平均747回/1人あたり、欧州では平均376回/1人あたり拡散(Auction broadcasts)されていると報告されている。
さらに、下記の調査数値が並ぶ。
- 米国では4,698社がGoogleからRTBデータを受け取ることを許可されている
- Microsoftが2021年末に買収完了したアドテク「Xandr(旧AppNexus)」は1,647社のサードパーティ社へ向けて「無意識(みなし)の許可済み」のデータ1,310億件を毎日RTB用に公開している(とICCLが計算上見積もる)
- 米国と欧州に限ったRTB市場だけで、2兆円規模(1,170億ドル)
図4:前出「ICCL」が発表したRTB入札における個人データの拡散状況の各アドテク企業別
※Xandrは2021年末にAT&TからMicrosoftに売却されている。
(文中単位のBillionは10億件、Millionは100万件)
出所)ICCLのビデオレポート
ICCLは政府機関や営利企業から独立した団体(草の根)であるので、その指摘する(訴える)相手団体とは、単なる営利企業だけでなく、政府監督機関や業界団体にも及ぶ。
図5:前出「ICCL」の「IAB(Interactive Advertising Bureau)」の自社サイトが違法であるという訴え
(ブラウザ上の自動日本語訳にて掲載)
出所)ICCL
図5は、業界団体であるIAB (Interactive Advertising Bureau) の欧州が定義するスタンダードであるTCF(Transparency and Consent Framework)が違法であるとの指摘だ。そのスタンダードの延長でおこなわれているIAB自社サイト上のCookie同意ポップアップの表示方法すらが、GDPR視点で「違法(だましやずるい姿勢)」だという訴えである。審査の結果、違法が認められたという告知が・・・
続きはMAD MANレポートVol.91(有料購読)にて
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