<3月号の目次>
◎ New York Timesによるデジタル版移行の意気込み
◎ コンベンションから考える参加意義と場所の価値(前編)/(後編)
◎ The Trade Deskのインパクトと「ポストCookie」への示唆 マニアックレポート(前編)/(後編)
The New York Timesによる電子版への意気込み
■地方紙だったNYTと全国紙の日経
NYTはニューヨーク市近郊向けの地方紙なので、日本で例えると新潟日報や神戸新聞のような位置づけの地方紙であるという理解が出発点だ。米国でのロサンゼルス市近郊向けの地方紙であるLos Angeles Times(以下LAT)などと同様である。
ニューヨーク在住の人がLATを読むことは少なく、同様にロサンゼルスの一般市民がNYTを読む機会は稀であった。ドジャーズ(LA)とヤンキース(NY)のようにご当地ファンでいたい地域性もあろうが、そもそも紙の新聞には他の地域では高額な送料を支払わないと読むことができないという事情もあった。
その点では日経は日本の全国紙という背景を持つ。日本の全国紙である日経がカバーする世帯は4,885万世帯である(国立社会保障・人口問題研究所の推計データ参照)。一方、NYTやLATを米Nielsenが区分する「DMA」(Designated Market Area)で見ると、ニューヨークは682万世帯、ロサンゼルスで515万世帯の土俵しか持っていない。
そんな地方紙とは言え、天下のNYTの総従業員数は4,700名で、ニュースルーム(コアコンテンツ)勤務では1,700人の正社員を抱えている(2020年末)。これに対して日経は3,065人(2019年末)の社員数だ。雇用形態の内訳の違いもあるのでここではざっくりと同じくらいの企業の規模感として解釈する。
■2011年頃からきっぱりと方向転換していたNYT
図1は、米国における印刷版の日刊紙の発行部数が2003年を過ぎたあたりから落ち込みが目に見えだして、2009年を過ぎたあたりからガタッと急激に落ち込んでいる推移を示している。今から10年前の2011年頃は、いよいよ紙の新聞が読まれなくなるぞという転換をし始めた時である。その時代を知らない人でもこのグラフの数字からその様相が想像できるはずだ。
図1:米国における印刷版の日刊紙の発行部数推移
赤文字は1989年を100とした時の減少度合いを記した
出所)https://www.statista.com https://www.journalism.org
2011年当時のNYTの日刊紙発行部数(朝刊)は想像できるだろうか。何とほんの110万部程だ(図2参照)。まさにニューヨーカーだけが読む典型的な地方紙であった。同時期の日経新聞は約300万部が購読されていた。NYTの印刷版の発行部数はこの2011年以降は伸びることなく逓減していき、2020年末で80万部にまで落ちている。
図2:NYT印刷版の発行部数とデジタルアカウント数の伸び
出所)NYTの10-K年次報告書(2020年)
その一方で、デジタルニュースの購読者数の伸びが顕著である。2011年には40万件であったのが、2020年には約12倍の510万件にまで伸びている。CAGR(年平均成長率)で毎年約33%ずつ伸びている計算だ。その他の購読者数も含めると、2020年は750万件の有料アカウントを持つ。
単なる地方紙の印刷版による新聞社が、110万部ほどの購読者数をその後750万部にまで拡大するとはとうてい想像もできない成長だ。図3はその収益(Revenue)の内訳である。
NYTの印刷発行部数は2020年に向けて徐々に部数を落としていたのだが、図3のグラフは収益の推移で値上げを幾度と繰り返していたことにより、売上の激減をくい止めている様子が見える。
その主要収益の下げをくい止めている間に、電子版が上積みを重ねた技ありの企業経営シフトだ。印刷版と電子版を合算したサブスク全体の売上が2011年は約780億円(7.06億ドル)だったが、2020年には約1,315億円(11.95億ドル)にまで成長した。
ここまでが契約者(サブスク)にフォーカスした数字の推移の物語である。図2に戻って2019年と2020年を比較すると、特に特需の度合いが読み取れる。電子版の購読者が1年間で340万件から510万件と5割増しで爆上げしている。これらは他のデジタルサブスクであるDisney+やNetflixなどを筆頭に見られた一つの特徴とも言える。
■NYTの広告収益の下落
他方、図3の棒グラフには広告収益が加算されていない。過去3年間の印刷版と電子版での広告収益の推移が・・・
続きはMAD MANレポートVol.76にて
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