◎ 日本の新内閣は年齢で世界と比較するものか
◎ 米国の選挙シーズンで見られたGoogleとFacebookの「あおり」
◎ ついにAT&TがDirecTVとXandr(アドテク)の売却検討
◎ 映像コンテンツの価値が薄れている先回り(コラム)
◎ 米国の電波放映TVの移り変わりに向けての基礎データ
(1)米国における有料日刊紙の発行部数推移(1989-2018)
(2)米国の「有料テレビ」の視聴者乗り換え状況(2013-2023)
(3)単価を引き上げる事で成り立っていた米国テレビ事業
(4)米国のテレビ視聴世帯数の推移
◎「Apple One」から連想する「飴と紙芝居の逆転」
ついにAT&TがDirecTVとXandr(アドテク)の売却検討
図1:2015年に490億ドル(約5兆円)で買収したDirecTVをついに手放すAT&T
Verizonが動画ビジネスの「GO 90」を閉鎖し、Yahoo!とAOLのメディアデータを扱うために誕生させた「Oath」の看板を降ろした(名称をVerizon Mediaに変更)のが2018年11月。この時点がVerizonは「軽いデータ」の取引マーケティングから事実上、手を引いたタイミングだ。具体的に言い換えれば、Verizonは映像広告のターゲティング広告配信のために、モバイル顧客のデータを使用するような事業は柱とはしないという判断を下した時期だ。
すでにMAD MANレポート2020年4月号 Vol.65で「AT&TのCEO辞任とサブスクライバーの急激減少」として「予兆」をレポートしたが、Verizonから遅れること2年で、AT&Tがようやく「軽いデータ」を手放す事に腰を上げたようだ。買ったばかりの「兆円規模(Time Warner買収額まで含めれば約15兆円規模)」を、「失敗でした」と手放すことは判断しづらいだろうが、いよいよ損切りとばかりにAT&Tが舵取りを変えた。
WSJのスクープによれば
・衛星放送TVのDirecTV(2014年当時 約5兆円/485億ドル:図1)を買収
・AppNexusを買収して(当時約1,800億円)、アドテク配信の「Xandr」を社内構築
・日本とも繋がりが深いアニメチャンネルの「Crunchyroll」の売却
上記の3点が囁かれている。まだ報道されては無いが「買ったばかり」のWarner Media(元Time Warner、当時9.4兆円)も、いずれ宙に浮くに違いない。顧客と繋がるパイプ(DirecTV)と配信エンジン(Xandr)を手放し、放映コンテンツ(Warner Media)だけが残って、メディアビジネスを再編する企業体質とは考えられない。はっきり言えるのはAT&Tが「広告収益」を事業の柱から取り除こうとしている事だ。
また、このスクープによれば、DirecTVの50%の株式を放出してバランスシート(B/S)を改善させ、引き続きサブスクライバー事業の収入も得るという方法で「徐々に荷を降ろす」になりそうだ。
DirecTVは有料会員数が過去2年で700万件も減少しており、買収当初は2,600万件あった契約者が今では1,500万件だ。このため売却額は購入時に投じた額からの減額になる。それでも推定約2.2兆円(200億ドル)規模がB/Sに戻ってくる。AT&T全体の負債総額は約16.7兆円(1,520億ドル)
■「散らかしすぎ」のAT&Tのテレビビジネス
参考までにAT&Tの「テレビビジネス」は、少々「散らかしすぎ」な様相を呈していた。AT&T傘下では、現在「5本(4本)」のテレビ配信事業(パイプ)を持つ。
・DirecTV(衛星放送 1,500万世帯)
・DirecTV Now(現在はAT&T TV Nowと呼ばれている、vMVPD)
・AT&T TV(DirecTVではなくIPベースのサービス)
・U-verse(AT&Tのオリジナル・ケーブル配信TV)
・WatchTV(廉価版のIP配信。今年中止に。)
図2:米国のPay TV(ケーブル回線、衛星回線、電話回線、vMVPDを含む)2020年Q1時点の契約者数
出所:https://www.leichtmanresearch.com/
赤囲みがAT&T関連。自宅待機の前の状態で、全体的な減少が見られる。
■難解な日本での報じられ方
この転換点をDIGIDAYの日本語版が英文記事を和訳で報じた。Yahooニュースなどにも転載されているが、毎回ながらDIGIDAYの日本語翻訳の記事は、多少の解説がないと意味が伝わりにくい。しかし、広告やマーケティングやテレビ広告という分野での10兆円規模の事業売却は、大きな潮の変わり目の状況に間違いないのだが、どうやら対岸の火事のようだ。
特に下記の日本語で理解できるだろうか
2020年9月13日 DIGI DAY日本語版
AT&T は、メディア事業から撤退しようとしているのか?:ワーナーメディアも売却とのウワサ
<以下抜粋>
ワーナーメディアのザンダーとの協力は、ザンダーのCEOのブライアン・レッサー氏が今年に入って会社を去り、AT&Tがザンダーをワーナーメディアに組み込むまで、円滑には進んでいなかった。ワーナーメディアとザンダーは今年に入って、広告バイヤーとの共同ミーティングを積極的に手配するなど、より緊密に協力してきた。だが、エージェンシー幹部によれば、ザンダーが構築してきたサードパーティのインベントリーを扱うより広範なマーケットプレイスではなく、TVネットワークやデジタルサービスなど、ワーナーメディア独自のインベントリーが、依然として広告主の最大の関心の的になっているという。来年に登場予定のHBOマックス(HBO Max)の広告付き(AVOD)バージョンは、ザンダーの追い風になる構えのようだ。
出所:https://digiday.jp/publishers/as-att-considers-dow...
MAD MAN筆者の補足:
・買収したばかりのWarner Mediaのコンテンツとアドテク配信のXandrとの連携は、旗振り役であるWPP/XaxisからヘッドハンティングされたBrian Lesser氏が2020年3月の(謎の)退任によって、今年はコンテンツと広告の接続が設定されない、あやふやな状態のままテレビCM販売シーズンを迎えていた(+さらに外出自粛の状態が輪をかけた)。さらにCEO自身が2020年7月に引退した
・Xandrは2019年実績で約2,200億円(20億ドル)の収益があった。これは主に「AppNexus」のデジタル広告のディスプレイ販売方式がそのまま継続されたものであった(例:DirecTVの1時間あたり2分あるベタなCM枠の販売)。
今後はコネクテッドTV環境に向けて、「アドレサブル配信を含めたターゲティング広告をトップダウンで売り、利回りを3倍にしろ」というお達しだったが、その「司令塔」「旗振り役」がCEOもろとも不在になってしまった。
・デジタルの広告インベントリー(シリコンバレー方式)と、テレビCMのインベントリー(ハリウッド方式)は、リードタイムのとり方からアドフロードの概念に至るまで、水と油のような性質がある。Lesser氏はデジタル出身でありながら、WPPのトラディショナルメディアのGroupMの北米トップを務めていた「両極」を知る人材であった。
水と油の典型が、アドテクの販売方法としてサードパーティも参画するマーケットプレイスとしての販売方法があるが、TV広告は膝を付け合わせて巨額をコミットして販売するプライベート取引に近い。米国のTVCM広告販売期間の「TVアップフロント」では、ディスプレイ広告出身のAppNexusの利点が発揮できない部分が多々ある。
AppNexusのディスプレイ広告販売のプラットフォームでは、「コネクテッドTV」としてリビングTV画面上に複数差し込まれたパイプに「アドレサブル広告」を配信する機能は十分とは言えない。その証拠にAT&Tは2019年10月になってテレビの在庫販売に特化した配信プラットフォームの「Clypd」を「追加買収」している。
さらに2つの混乱がある。1つには「モバイルユーザーデータをTV広告配信ターゲティングに利用してはいけない」GDPR/CCPAからの流れだ。Verizonが2年前に気づき、AT&T内部でも気づき始めた事だ。
この影響で2020年3月に発表したDisneyとAMCとのリニアTVで共通インベントリーを作る提携も形だけになってしまい、一向に進んでいない。Xandrが共通ターゲットセグメントを作るデータを提供できないからだ。ここに広告業界の「過渡期(やっていいのかいけないのかの間)」が見られる。
もう一つが、Warner Mediaの人気番組コンテンツであったケーブルの有料チャンネル「HBO」を、2020年5月にIP配信でサブスクができる「HBO Max」としてローンチさせ、さらに広告付きのAVODのメニューを作ろうとしていることだ。
今までのHBOファンよりも割安な価格帯のHBOが登場し、さらに「広告」を付与しようとしているのだ。HBO視聴者側には乗り換えの混乱を生じ、広告ビジネス側としては上記の広告ターゲティングのジレンマと矛盾する。
ローンチの5月からまだ3ヶ月だがHBO Max申込者は490万件(月額$15)。2019年11月かスタートした「Disney+(月額$7)」がすでに世界で5,000万件なので、スロースタートな状況が伺える。これはIP配信のゲートキーパーであるAmazon FireとRokuが、(旧)HBOのサブスクは彼らのドングル経由での売上だったのに(新)HBO Maxの場合は直接視聴者からHBO(AT&T)へ収益があがってしまう事に対して「邪魔立て」をしている。
■日本で考えておきたいこと「ピンポイントや個人ターゲティングの推測から、広い網掛け状で、かつ、直接に脳へ」
DocomoやKDDIのような通信インフラ企業は、今後とも「データ」のパイプ役として重要な位置を占めるのは誰しもが理解できるところ。ただし、彼らの事業領域として「広告」「ターゲティング」「編集ビデオコンテンツ」と言われる旧来のマーケティングの「金貨」「種」だと思われていた行為が、「ご法度」(ダメ以下の“負債”)にシフトしている状況の現れだ。このトドメがAT&Tの決断だろう。少なくとも・・・
続きはMAD MANレポートVol.70にて
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