◎ 日本の出来事を海外から2つ解説
(1) レナウンの破産申告から「会社精算」発表の裏
(2) 武田薬品のアリナミンVなどのOTC部門売却の新しい価値
◎「空洞化ショッピングモール」がAmazonのマーケティング
◎【所感コラム】:店舗企業が取り入れたい、Amazon企業体の「AI」的な動き
「空洞化ショッピングモール」がAmazonのマーケティング
Amazonが次はとうとう米国のショッピングモールを「占拠」し始めた。決して物理的な店舗の「Whole Foods Market」を進出させる策ではなく、あるいはレジなし「Amazon Go」の出店でもない。Amazonにとって物理的な店舗を拡大することのメリットは無いからだ。
図1:空洞化するショッピングモールをWSJが切り取り報じる
Amazonの一貫とした「オンライン&宅配」事業に向けた「巨大フルフィルメントセンター」の拠点として、空室が加速する全米のショッピングモールを占拠し始めたのだ。もしこの入居交渉が進めば、1店舗あたりは10万平方フィート以上(9200㎡、2800坪)単位が数十箇所規模で進むので、全米におけるAmazonによるショッピングモール事業に対する「オセロの裏返し」が一気に進むことになる。これは「漁夫の利」を上回る状況に見える。
図2:Amazonによる、ショッピングモールのフルフィルメントセンター化の例
■懐かしいアメリカのショッピングモールの風景
図3:1980年代のアメリカのショッピングモールの様子
アメリカのショッピングモールと言えば、さながら「休日に子ども連れの家族が楽しむ屋内遊園地」のようなイメージで、百貨店のMacy’s やSears等をめがけて人々が集まり、そこに行き着くまでの街道に華やかなブティックが並び、その最終地には「フードコート」が存在し家族が集う。1980年代の風景が図3だ。
本当の遊園地のような遊戯施設や映画館は必ず併設されており、立地も高速道路のインターチェンジ付近の交通便が良い場所に位置し、当然ながら巨大駐車場を併設しており、アメリカ市民の週末の集合場所であり、小売事業の集約の要であり生活のインフラであった。
ところが、1990年代よりすでにこのショッピングモール(チェーン)経営は、稼ぎ頭であったはずの主力テナントの百貨店経営手法が軒並み倒れ、2000年に突入すると旗艦店の百貨店テナントの「客離れ」による不振が顕在化する。
図4:洞化する米国のショッピングモールのイメージ
周知の「破綻」を並べるだけでも、「JC. Penny」「Sears」「Lord & Taylor」「Neiman Marcus」と総崩れが続き、現在は虫の息で残る「Macy’s」「Nordstrom」や他のリテーラーも、店舗の大量閉鎖しか方法がない状態。ショッピングモールは一気に「空洞化」「ゴーストタウン化」が進んでいる。
この状況を打破すべく米国最大のショッピングモールチェーンを持つオーナー「サイモングループ/Simon Property Group Inc.」はAmazon.com Inc.に向けて、新規テナントとしての入居交渉を続けているとWSJが報道した。
■小売店舗の天敵Amazonが店の隣に大手テナントとして引っ越してくる皮肉
Amazonといえば、ショッピングモール業界や多くの小売業者にとっての最大の破壊者であり「天敵」である。それがいまや、衰退した百貨店が残した「巨大な空きスペース」を引き継ぐために、ショッピングモール自身が「入居者」を探してAmazonに交渉を始めている。Amazonにとっては自社が撒いた追い風が、さらに追い風を呼ぶ形だ。小売店舗にとってみれば、「天敵」「占領軍」が横に入居してくるイメージだろう。
このショッピングモールの最大のチェーン企業のSimonが、自社のモールに入居していた破産した巨大百貨店の「JCPenney」と「Sears」の入居スペースを数十の規模に束ねて、Amazonに対して、フルフィルメントセンターに転換させる交渉が進んでいる。例えば今年2020年5月時点の公開申請によると、SimonグループにはJCPenneyが63店舗、Searsが11店舗入居している状態で、不振の突破口が全く見えない状況だ。
図5:Amazonのフルフィルメントセンターの内部様子
ご存知の通りAmazonの業態の要は、ハブ倉庫の「フルフィルメントセンター」の拡張こそが強靭な資産として成長している。本、洋服、キッチン用品から電子機器まで、地元の顧客に配達されるまでの在庫保管期間のタイムラグを最短にすべく、すべての商品・モノを保管から配送までを受け持つ「場所・中継点・配送車出発点」の設置拡大こそがライフラインだ。
Amazonは2020年5月の時点で「フルフィルメントセンター」が北米で100拠点(世界で175拠点)が存在する。1拠点平均150万平方フィート(14万平方メートル、4.2万坪)がAmazonの標準フルフィルメントセンターであるので、今回話題にしているショッピングモールの百貨店サイズはその約10分の1の「ミニサイズ」だ。巨大と思える百貨店の敷地も、AmazonのFCにとっては「小さい」部類になる。
参考:https://www.aboutamazon.com
参考までに日本におけるフルフィルメントセンターは16箇所(関東9箇所、関西6箇所、福岡1箇所)に伸びている。世界の10%程の拠点数だ。
参考:https://www.njinc.jp
■Walmartは勝てるのか
このamazonとの比較として、既存店舗を持つ事を資産としている「Walmart」が、自社が持つ全米の4,756店舗(2020年1月現在)を「マイクロフルフィルメントセンター化」として、店舗を宅配拠点として「利活用」させようと、すでに生鮮食料品分野で「ガチンコ」状態である。
Walmartが、Amazonと競っているのはオンラインで購入した商品の配送の迅速化である。決して価格ではない。Walmartはパンデミックの影響で対面での買い物ができなくなった。その対策として、店舗をミニ配送センターとして転用・利活用していた。しかしながらこれは場しのぎの対策、取らざる得ない選択肢であり受け身の発想だ。
その一方でAmazonは、自社の車が郊外の住宅へと配送しやすいよう、一等地の百貨店のスペースを自社の巨大な配送エコシステムに組み込もうと能動的に獲得しているのだ。
そのWalmartの実店舗でのもがきや調整的な動きなのに対して、Amazonは見向きもせず最初から「倉庫からご自宅へ」の発想の軸がぶれていない。
「コスト効率」の見地からみれば(初期投資を除いた後は)、Walmartの既存店舗の改造よりも、「頭から開発した」Amazon側に軍配があがる。すでに現状のオペレーションですでに結果がでているこの分を、さらに加速させてしまうのがこの報告の見どころだ。宅配における三河屋のサブちゃんとサザエさんとの関係構築の価値は、MAD MAN読者にはおなじみのはずだ。
続きはMAD MANレポートVol.69にて
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