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75歳現役 マーティン・ソレルの新ディスラプション戦略
筆者はWPPの在籍期間が長かった事もあり、個人的にマーティン・ソレル卿のファンである。その上で誰も日本語で伝えぬ「ソレル氏の秘策」を紹介する。
※「卿」は英国からSIRの称号をもらっている人物への称号として日本語の記載方法。以降読みやすさを考えて「氏」で統一する。
英国上場企業の「S4 Capital(含むMighty Hive、Media Monks)」を率いる、マーティン・ソレル氏がQ2の発表を終えて、新たなM&Aを発表し活発になってきた。M&A関連の新たな傾向について公表している。
■ソレル氏のファンである筆者のトリビア
・ソレル氏の生年月日が1945年のバレンタインデーである2月14日
※ドナルド・トランプ大統領は1946年生まれの1歳下の74歳で6月14日生まれ
・3人の息子は全員ケンブリッジ大を卒業後に「Goldman Sachs」を経て、すべて金融業界のヘッジファンドでの一線で活躍している
・そして、2008年に結婚した二人目の奥様は「World Economic Forum」のディレクターだったので知り合った
・その奥さんとの間に4人目のお嬢さん(71歳の時)が生まれ、現在子育ての最中
・さらに12年連れ添ったその二人目の奥さんとも現在離婚協議中
これらはすべてWikipediaレベルの公開情報であるので掲載させてもらった。
出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Martin_Sorrell
https://www.dailymail.co.uk/news/article-8044395/A...
雲の上の存在で現役のソレル氏のビジネスを、筆者ごときが解説できるわけではないが、未来をいつも先取りしている戦略や目線に筆者は敬服し、先行事例として参考にしている。上記の生活っぷりも、真似ができないスケールだろう。
ソレル氏がWPPを辞任してから持株会社S4Capitalを買収して成長した事は、1985年にソレル氏がWPP(Wire and Plastic Products)という企業を買収して、それを器に世界最大の広告会社のホールディング企業に成長させた方法とダブる。
現在のS4 Capitalは、クライアント企業の「ファーストパーティ・データ」にフォーカスした、インハウス化支援のビジネスだ。ソレル氏はGoogle・Amazon・Facebookをかつて「フレネミー(友のような敵)」と呼称したことを訂正して「仲間・パートナー」として再定義し、共に成長する戦略に切り替えた。
■S4 Capitalはすでに「ダブル(サイズ)ユニコーン」
S4 Capitalは上場会社なので未上場スタートアップの「ユニコーン」の称号を与えられないのだが、「ユニコーン」が10億ドル(US$ 1 Billion)以上に入る未上場スタートアップと区切るのなら、ソレル氏は起業3年で、そのさらに倍の価格まで伸びた(20億ドル)というPRを行っている。
S4 Capital is closing in on what he termed “double unicorn” status, or a valuation of $2 billion.
出典:https://www.mediapost.com/publications/article/353...
■「材料を買って商品を売るな。先に会社を売れ」
ソレル氏の戦略として当たり前ながら特筆して紹介したいのが「事業主たるや、商品・サービスをフォーカスよりも、まず会社(価値)を売れ」という方針だ。
事業主はとかく、良い商品、良いサービス、あるいは新しいSaaSを開発してから、クライアント企業に営業する事を事業の目標とする。これらは間違いではないのだが、ソレル氏の経営仕分けからすると、P/Lに偏り過ぎた発想であり「遅い」「間違い」として区分される。
ソレル氏の発想や言葉は必ずB/Sを起点とする。よってソレル氏の「売り物」とはP/L上の仕入れ材料ではなく、B/S上の「会社価値を売る」「いかに自社が高く値付けされるように仕向けるか」と例えられる。
日本の企業でも、B/S発想と言いながらも「買収相手企業を安く買って、高く売る」程度の工程のM&Aならば、P/L発想の方法と変わりなく、B/S帳簿の上でなぞっただけ、と言える。「安い仕入れを探すよりも、今の自分を最高にしろ」というメッセージは、スキルの仕入れを追い求める社員個人にも通じるメッセージだろう。
■M&Aによる水平成長は脳がない「餌やり」だ
実は過去のWPPの買収手法がこの「安く買い、高く売る」方法のままであり、30年以上もそれを「お手本」として示していた事をソレル氏はあっさりと「それが使えていた時期もあったけれど、それもう今は使えないでしょ(That made sense for a time, he added. Now, “it’s gone.”)」とインタビューでは認めている。
古巣のWPPがその「オワリ」にまだ気づいていないのを指摘するかのごとく、ソレル氏は現在のWPPの「現状維持」経営について「ブタに餌をあげるだけの経営(“making a pig’s breakfast of it,”)」として、P/L経営を牽制した。筆者は子どもを想う父(としての鞭)としてのコトバと解釈する。
■売りたい企業は探さない「S4 Capitalを買いたい企業」を探す
S4 Capitalはコンテンツ制作の「Media Monks」とプログラマティック配信企業の「MightyHive」を中心とする13社の企業で構成されている。ファーストパーティ・データは、引き続きS4 Capitalのフォーカスの一つ。日本法人は日本人ディレクターを責任者として就任させ、第2ステージに移った。
リンクの記事中でソレル氏はきっぱりと
「事業を売却しようとする会社や買収候補は探していない。S4 Capitalの価値を買おうとする相手を探している」
と発言している。まったくもって、これを実践しているエージェンシー企業やアドテク企業は少ない。
例えて説明するとS4 Capitalは、確かにMightyHiveを買収したが「吸収」という単語で思ってしまうのは先入観である。逆の発想で「MightyHiveがS4 Capitalを気に入り」S4 Capitalの株式をMightyHiveの株式で「手に入れた」取引だと考えられる。ソレル氏側からすればS4 Capitalの潜在価値を、MightyHiveに「売った」取引なのだ。
だからこそS4 Capitalの取締役会の中に、MightyHiveの役員2名が名前を連ねている(買った側が、S4 Capitalを取り締まる構図)。
一般的な用語で説明すれば「買収したというよりも、常に合併し続ける」という雰囲気だ。
この新組織S4 Capitalによるチームづくりとは、Google・Amazon・Facebookを土俵にするグローバルチームを当然として、狙いをさだめる開発事業の矛先もクリアだ。ずるい表現をすれば「良い仕事を目指す」のではなく、S4Capitalの総収益の5%以上の規模でインパクトのあるクライアントに「買ってもらう」ための営業活動を行う。良い仕事(例えば新プロダクトやSaaSのシステム)を売るのではなく、クライアント企業にS4 Capitalをまず買ってもらう戦略だ。
■「Land and Expand(土壌から成長する)」ストラテジー
すでにS4 Capitalには、WPP時代の強烈な「ソレル信者」が戻ってきている。その最高峰がCGO(Chief Growth Officer)として任命され戻ってきたスコット・スピリット氏だ。WPP時代でもCDO(Chief Digital Officer)、CSO(Chief Strategy Officer)を10年以上担っている親日派だ。なにやら個人情報満載の章になってきたが、それほど日本市場には大きなインパクトがある采配なので・・・
続きはMAD MANレポートVol.68にて
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