●「Generation Y(ミレニアルズ)」から「Generation Z」へ そして「Generation α」をセットで捉える
●Amazon・バフェット・JPモルガン銀行が構築する「同意(コンセント)」の輪
●Walmartが開拓する「会話型」コンシエルジュ・サービスのチームとは
●マーケティングは「軍事用語」から離脱し、「家族用語」へ
Amazon・バフェット・JPモルガン銀行が構築する「同意(コンセント)」の輪
図1:CNBC, 「The Bezos-Buffett-Dimon joint venture to save health care is struggling to find a CEO」
https://www.cnbc.com/2018/05/16/amazon-berkshire-j...
図1は左からAmazonのジェフ・ベゾスCEO、中がBerkshire Hathawayのウォーレン・バフェットCEO、右はJP Morgan Chase銀行のジェイミー・ダイモンCEO。WSJ、NY Times、CNBC等に今年1月こぞって取り上げられた。その発表とは、これら3社合弁で「ヘルスケア事業」を設立し、この3社の従業員の医療費を減らすととともに、将来はシステムを他の業種にも広げる可能性を示唆するものだ。Amazonはネット流通の最大手企業、Berkshire Hathawayは投資・保険業界の最大手(同社は傘下に最大手のGEICO社を持つ)、そしてJP Morgan Chase銀行の金融最大手(3つの社名を並べるとABC)で、3者は非常に息が合う「先見の明」を持つ仲間として良好な関係にある。
この計画自体は日本でも報じられたのだが、その取り組みの大きさと方向に関しては具体的な進捗がなかなか見えない報道ばかりだった。おかげで日本の医療や保険業界からの「Amazonエフェクト」的な焦りも起こらない無風状態が続く。
この3社の合弁は、まずこの各社の従業員と家族向けにあらゆる医療とヘルスケアのサービスを提供し、従業員の医療費削減(3社合計で約1.6兆円、後述)や慢性疾患への対応などに取り組む。また、これまでの医療ポイントのような、患者が個々の医療サービス毎に料金を支払うシステムではなく、「健康への効果(Outcome)」に応じた支払いにすることなどに取り組むとしている。
■格安サービスの広げ方とその目的
1月に発表されたこの新型サービス企業設立の目的は、これら3社の社員の福利厚生の増進を第一目標に置き、医療サービスや保険会社とは違う「利益追求を行わない」事業として立ち上げることだ。社員のヘルスケアを利益計上することを主たる目的とする営利企業に、わざわざ外注する必要を無くすことを目標とする。利益を出さないコストセンター的な業務にも関わらず、社内部署ではなく「合弁事業」という事業体を組んだところにポイントがある。
この合弁事業は、これまでのFacebookやGoogleのサービス拡大パターンである「無料」「格安」と引き換えに、一気にユーザーデータ提供の「同意」を取って情報を積み上げて行くモデルと同じである。集めたデータの解析や分散技術までを活用していく研究事業だが、今回は「身内(社員)だけで」、「身内(社員)へのベネフィット」として立ち上げている分、データの扱いについて「外部・他人」からの文句の言われようは無い。Amazonの54万人、Berkshire Hathawayの36.7万人そしてJPMorgan Chaseの25.2万人という3社の社員数を合わせて約120万人のスケールからスタートすることができる。
GDPR発効後、利用者からの「明確な同意(コンセント)」を元にしたデータ共有のプラットフォーム事業は、そのデータ管理のリスクも含めて成長に変化が起きている。例えばGoogleが各パブリッシャーに対してConsent Management Provider (CMP:同意管理プロバイダー)の利用を求めたり、制限したりしている様子は「同意(コンセント)」のとり方をテクノロジーで解決する方向へシフトしていることの現れだ。
これに対して今回の合弁チームは「Amazon方式」とも言える「身内の輪」を形成しようとする動きだ。Google的な、「匿名」利用者が無作為に増える「薄い関係」の輪を広げる方法ではなく、雇用主と社員という「家族のような」関係の輪から広げていく「安全」策である。Amazonによる「Whole Foods Market」の買収も、熱狂的な「Whole Foodsファン」を買収して「明確な同意(Explicit Consent)」を獲得する打ち手であった。元々Amazonの「Prime」メンバーは、明確な同意の元に、個人の購買や関心の好みをAmazonに随時提供を行っている。(「マーケティングは軍事用語」の章で後述したい。)
■医療・ヘルスケア産業は「成長している」かつ「ナンバーワン」産業
図2:米国における2014年〜2016年の産業別、年成長率
Craft, 「Fortune 500 – Fastest Growing and Shrinking Companies」
https://craft.co/reports/fortune-500-fastest-growi...
Amazonは「処方箋薬市場」の宅配事業にも進出の気配があり、医療部門全体への進出はかねてから関心が見られた。バフェット氏も同様に傘下に保険会社を抱える一方で「ヘルスケアコストの青天井の膨張は、米国経済全体に対して飢えた寄生虫のようだ」と記者発表で警告している。そしてJP Morgan銀行のダイモン氏が「自社の従業員と家族に優れたヘルスケアサービスを提供できれば、全米に提供できる可能性を持つ」とビジネスとしての裾野の広がりを暗示した。医療産業は悩ましくも巨大に成長しつづけている産業であり(図2)、より良い方向に伸ばしたいという気持ちは全企業、全国民に共通だ。
図3:急速に青天井で伸び続ける医療保険費
New York Timesより
図3は米国のインフレ・賃金の伸びと医療費の伸びを比較したものだ。インフレ率や賃金伸び率がこの19年通期で約50%であるのに対して、医療保険の負担額(企業側の負担であるEmployee Contributionと家族持ちの社員側の負担であるPremiums for family coverageの両方)はそれぞれ250%の伸びに迫る。これはインフレ率より5倍も早いスピードだ。
米国のケースを一人あたりの金額に換算すると、現在の保険費用は配偶者+子供を伴う家族プランの場合で、年間合計費用が200万円〜210万円(1.8万ドル〜1.9万ドル)である。この内の企業側の負担が65〜70%なので年間130万円〜140万円程の負担になり、社員個人側も年間60〜70万円の負担をしている状態だ。企業負担額が年間130万円だとすれば、上記の3社の合弁会社が対応する120万人で単純計算すると1.6兆円分の会社負担のコストに対するプロジェクト・サイズになる。これを減額できれば、3社の「儲け」となるのが「利益が目的ではない」プロジェクトの背景だ。
参考:KFF, 「2017 Employer Health Benefits Survey」
https://www.kff.org/health-costs/report/2017-emplo...
■日本も米国に近い状況 Amazonより先手の「同意」フォーメーションが求められる
実は日本の状況も「個人単体」や「比率」で見れば、米国と「医療費負担の額」には大差が無いのはご存知だろうか。米国は3.2億人の人口を抱えるため、「産業全体」として見るとその膨張ぶりが巨大で騒がれているが、日本単体での「医療+保険」も、自国のGDPに対する個人の負担具合で見ると、米国(世界)とほぼ同様に「巨大」で、増幅傾向にある。以下はおさらいだ。
日本の社会保険(「雇用保険」「労災保険」「健康保険」「厚生年金保険」)は国の義務として、会社側の直接メリットは特に無く、社員の生活を守る社会制度として会社が負担しなければいけない(この日本の「社会保険」の範囲は医療の部分だけでなく、年金積立が含まれている)。日本の会社側と個人側の負担はおよそ月額給与の15%ずつ(社員の負担は14%ほど)と言われる。30万円の月額給与ならば企業負担は・・・
続きはMAD MANレポートVol.43にて
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