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●待たれる日本の広告主の能動対応
GoogleがChromeで広告ブロックを導入する背景に学ぶ
●AmazonがWhole Foods Market買収発表
日本のメディアが報じない、小売業への影響とは
●さてAmazonの「Whole Foods」買収の一連の報道から何を考えるか
●今月のデータ オンラインとリアル店舗、鍵を握る宅配コスト
●IPOではなくICO。ブラウザーBrave が28秒で38億円調達
広告エコシステムが「イーサリアム」によって分散化する前兆
AmazonがWhole Foods Market買収発表
日本のメディアが報じない、小売業への影響とは
図1:Whole Foods Marketの郊外店の外観
筆者はWhole Foods Market(以下Whole Foods)の熱狂的なファン顧客である。しかしWhole Foodsの最大の弱点は「私の事を優良顧客として認識していない、決済情報を持っていない」事にある。AmazonがWhole Foodsを買収した事により、Whole Foodsは今後、私がAmazon Prime会員であるのでカード情報とアカウントを通じて、存在に気づいてなかった私をオンライン上から「握る」事になる。私が毎週月曜日に「どの」卵を補充し、週末に「どの」コーヒーを挽きに来るのか、そんな予想すらするようになるだろう。
先月のMAD MANレポートで「Amazonの次なる狙い。人びとが毎日消費する「冷蔵庫の中」」と題したレポートをした矢先、今月はこれが実現化の大ニュースとして発表された。6月16日(米国時間)にAmazon は約1.5兆円(137億ドル)で米国高級食料品スーパーの「Whole Foods Market(以下Whole Foods)」を買収すると発表したのは、既に日本でも大きく報道されている。下記はMAD MANレポート5月号で説明をしていた抜粋だ。
「(Amazonの狙いは)「グロッサリー・ストア(食料品・生活雑貨)」と呼んでいる点がフォーカスすべきポイントだ。アマゾンは当面の目標として全米で2,000店のオープンを考えている。
もっとも食品は「毎日リピート」するだけに、このオフラインのアカウントを獲得すればAmazonは顧客の懐への入り込みも深くなる。逆に既存のリテール業は、生鮮食品の買い物こそが毎日の来店動機であり、その先に高いマージンの商品をついで買いしてもらいたいための「釣り餌」がAmazonに奪われる事になる。
モバイル上での繋がりが「ファースト(起点)」となって、その延長にオフライン購買が選択肢として存在する状態を管理するインフラ・システムはまだ存在しない。アマゾンが開発投資で完成させようとしている世界は、モバイルが起点となるグロッサリー流通のシステムを自社開発で構築しつつある事だ。」
Whole FoodsはAmazonのおかげで、8,000万人と言われるPrimeメンバーの決済情報とリアル店舗を結びつける事ができるようになる。
図2:Whole Foods Marketの内観 ニューヨーク・コロンバスサークル店
■「グルメ・スーパーマーケット」のWhole Foodsとは
健康を切り口にオーガニック食品を数多く扱う「グルメ・スーパーマーケット」チェーンのWhole Foodsは、日本で例えれば成城石井や紀伊国屋のタイプの「巨大店」と思って良い。最近の1店舗の平均敷地面積は約3,900㎡(42,000sqf、 1,180坪)、これは成城石井の大型店平均の約5倍以上の広さだ。「見ているだけで楽しい」店内レイアウトと商品は、日本からニューヨーク(米国)への出張者には、視察と同時にお土産スポットとしてお勧めしている。
創業1978年、当時25歳の大学中退者ジョン・マッキー(John Mackey)と恋人のRene Lawson(当時21歳)が、家族から借りた資金45,000米ドルで開店した小さな自然食品店をテキサス州のオースチンに開業したのが最初。合併によりWhole Foods Marketとして開業は1980年。海外はカナダ、ロンドンに進出し、現在は約460店舗。日本には未進出。(出典:Wikipedia)
■発表その日のインパクト
Amazonのグロッサリー進出のインパクトは大きかった。発表があった16日(金曜日)の当日、グロッサリーをあつかうスーパーのTarget、Kroger、Costco、Walmart、Dollar General、SuperValu、Sprouts の合算で、市場価値の約2.4兆円(217億ドル)が吹き飛び、Wal-Mart1社だけで約1.1兆円(100億ドル)を失った計算だ(図3)。直接競合だけでなく、SquareなどのPOS(販売時点情報システム)に関わる銘柄が売られたのも、単なる旧小売への警鐘ではない事を語っているようだ。
買収される側のWhole Foodsがプレミアム乗せ分の29%上昇したのは理解できるが、Amazonも3%上昇。通常大型買収を「仕掛けた側」は投資支出分の未来不安定さから株価は下がる事が通説だが、この日のAmazonの評価は上がった。Amazonの当日の約51兆円=4,700億ドルの企業価値3%は約1.5兆円分。単純比較できる数字同士ではないが、この発表たった1日で買収金額分の「価値分を作りだした」事になる。
図3:CNBCテレビで、各流通企業の株価が大幅に下げた事を報道している様子。
■Whole Foodsでさえが、リアル店舗の活路を見いだせてなかった事実
Whole Foodsは過去10年間店舗数、売り上げともに右肩上がりで増え続け破竹の成長をしていた。しかし図4に示すとおり2015年あたりから成長が止まっている。実は2015年にWhole Foodsは量り売り商品のラベルの重量を実際より重く表示し、実際の価格よりも多く請求していたことが発覚して以来、経営が伸び悩んでいた。
図4:急成長だった売上も伸びが鈍化しており、現在は150億ドル台(約1.6兆円)で止まっている。
営業利益は2015年、2016年共に8.6億ドル(約900億円)で横ばい。
(出典:eMarketer)
図5はさらに「既存店」同士での比較で伸び率を分解してみた。2015年中盤から既存店は7期連続減り続けている事になり、図4のWhole Foods全体のわずかな成長は店舗数を増やすことだけに頼っていた事になる。「Whole Foodsでさえ」がリアル店舗依存のままでは、ブランドが衰退しつつあるのを感じている矢先の発表だった。Whole Foodsのような高級グルメ・スーパーの形態がまだ存在しない日本では、店舗小売のWhole Foodsの限界について指摘している報道は少ない。Amazonがオファーした29%のプレミアム乗せの1株$42金額も、2013 年の最高値$65から40%ほど低い値なのだ。
図5:Whole Foodsの四半期ごとの既存店・売上高前年同期比。
7期連続で下げている事がわかる。
Whole Foodsの財務諸表より著者作成
■「冷蔵庫」を含めた流通網の変革と、店頭でのデータ収集
翌日17日の日経新聞でも「主戦場は店舗受け取り、アマゾンのホールフーズ買収 崩れる倉庫と店舗の垣根」と報じられている通り、消費者までの「ラスト・ワンマイル(最後の1マイルの配送)」は「届ける」のか「取りに来させるのか」の発想の逆転が始まっている。グロッサリーにおける配送手配とコストをAmazonやWhole Foodsが負担するのではなく、消費者側に選択を与え「自分でピックアップする」か「コストを負担してでも自宅配送」を選ばせる・・・
続きはMAD MANレポートVol.31にて
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