●広告主から見えぬSNSの「サイレント・フィルター」
コミュニティー・ガイドラインは誰が監視するのか
●ネットからテレビ予算への揺り戻しは今年も続くか。
米「アップフロント」の注目トレンド
(1) 前半:テレビ局を中心とした「スモール・ウォールド・ガーデン」
(2) 後半:テレビ広告主のプレミアム志向とリーチ志向の二分化
●YahooとInstagramのCEOがWal-Martの取締役
Amazonベソス氏に対抗できるマーク・ローレ執行役とは
●今月の気になる事象
日本のコンビニ=すでに停滞している実態
ネットからテレビ予算への揺り戻しは今年も続くか
米国のテレビ業界が9月からの番組改編に向けて広告枠をバルク売りする「アップフロント」の時期(4-5月)が迫って来た。毎年の恒例行事のアップフロントが今年程「スケジュール満彩」で、「注目される」状態は過去に無かったと言える。
図1:今年の「アップフロント」時期に登場するプレゼンテーションを行う局、パブリッシャーの例
https://www.mediavillage.com/article/upfront-volum...
同等比較の対象にはできないが、日本でも4月改編と9月改編と半年毎に各局のテレビ番組における「タイムCM枠」の契約の更新や入れ替え時期がある。この「テレビCM枠契約」において米国のテレビ局は、
・年に1度だけ開催し、
・タイム枠(※という呼称や概念の枠は米国には存在しないが、あえて説明用として)の販売に加えて、広告主のコミット金額をオーディエンスリーチ数保障で販売し、
・旧リネア放送(電波放映、ケーブル放映等)枠+オンライン配信枠セットで販売するために、
テレビ局ごとに「プレゼンテーション(パーティー)」を開催するのだ(図1:アップフロントに参加予定の局の例)。
年に一度の気合いや規模の違いはさておき、テレビ・ビデオの広告市場の先取りする米国市場の動向が見える時期であり、特に今年は過去3年と大きな違いが現れるので注目だ。その違いとは「オンライン・ネイティブの広告から、テレビ・コンテンツへの広告予算強化の揺り戻し」である。
■「米国のアップフロント」の元々の姿
米国のアップフロントは、元々はネットワーク放送局のABCが1962年に開始した行事で、それに続いたNBC、CBS、FOX等のネットワーク局以外にもESPN、MTV等のケーブル・チャンネル局が加わった。いわゆる「(広義の)テレビ局業界のセールス祭り」が行われていたのが5-6年前までの姿である。
各局主催のプレゼンテーションが行われる場所はニューヨーク(のみ)。ニューヨークの名所の「リンカーンセンター」、「ラジオシティー」、「カーネギーホール」等の場所を借り切り、あるいはテレビ局のスタジオへ招待し、買付け側の大手広告主とエージェンシーは「引っ張りだこ」で、スケジューリングに忙しくなる。各局も互いにスケジュールを分散させ「重ならないように」配慮・調整する。4月から小さなケーブル・チャンネルのプレゼンテーションが始まり、5月の後半に4大ネットワークの大御所プレゼンテーションが登場する、という序列になっている。
図2:今年の「デジタル」Newフロントに参加するオンライン企業。
これ以外にレガシー局が加わり「アップフロント」全体では約70セッション程が開かれる。
出典IAB
ところが2012年頃から徐々に「オンライン・コンテンツ」を持つパブリッシャーがこのテレビ・アップフロントのスケジュールに食い込み始めた。米国IAB(Interactive Advertising Bureau)が音頭を取り「Digital Content NewFronts(「アップフロント」、ではなく「Newフロント」)」と題して5月初旬にデジタル・パブリッシャーのプレゼンテーションを開催するようになったのだ(図2)。旧来のリネアテレビの大御所(NBC、ABC、FOX、CBS、ESPN等)はデジタルのNewFrontの後、5月後半に登場するようにうまく調整されている。
図2には、マルチ・チャンネル・ネットワーク(MCN)系のMakersやFullscreen、AwsomenessTVのようなオンライン・ネイティブなパブリッシャーから、New York Times、Time Inc.のような紙媒体出身のパブリッシャー、そしてYouTube TVを発表したYouTubeやHulu等のSVOD系の企業まで多彩だ。ちなみにNetflixは広告枠販売のビジネスモデルではないので、参加していない。
■昨年から売上が上昇に転じたレガシーテレビ局のアップフロント金額
年々増え続けるオンラインでのビデオコンテンツ(番組)のトレンドにおいて、レガシー(旧態)の放送局のアップフロントでの総収入(Volume)は3年連続で減少をたどっていた。ところが2016年のアップフロントの結果、レガシー放送局の総収入は3.6%「上昇」し、さらに各局傘下のデジタル・ビデオ部門の総収入は17%も総収入が増えている(図3)。
図3:昨年(2016年)のアップフロント予算の結果。
3年連続で下がっていた総扱い高(Volume)が、レガシー放送局もケーブル局も上昇に転じた。
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4大ネットワーク放送局の一番の売り物であるプライムタイムのCPM「単価」でみると、一番「低い」FOXで前年比9.2%伸び、ABC(9.4%)、CBS(10.5% )、NBC(12.6%)と平均10%以上も値上がる過去最高の伸び率を示した(図4)。過去のCPM単価の変化「相場」は、前年比一桁%の前半であるだけに、極端に大きなCPM単価の伸びとなった。
図4:米国の上位6大テレビ局ネットワーク別の、昨年(2016年)のアップフロント予算の結果。
上位4大ネットワークは2桁前後伸びている。
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2016年はオリンピック+大統領選の年で、広告市場がそもそも潤う年である分を差し引く必要も考えられるが、2016年リオ・オリンピックは8月のイベントであり、2016アップフロント予算は9月以降の買付けコミットである。また2016年11月の大統領選が「デジタル戦」であったのもご存知の通りで、2016年5月時点の「広告主予算」が大統領選のためにテレビのアップフロントに流れたとも考えにくい。
この傾向が今年も継続されるとされ、日本の広告主は米国の「オンラインからテレビへ※」の揺り戻し傾向の理由に気づいておくべきだろう。(※この短絡キャッチを正確に言うと「オンライン・ネイティブのビデオ・コンテンツへの広告枠出稿だけでなく、レガシー放送局が制作するコンテンツと共に広告配信する予算へのシフト」である)前章のYouTubeへの広告出稿控えのトレンドとも重なってくる。
■レガシーテレビ局側の、売り方の工夫
去年からのテレビ広告業界の現象(MAD MANレポート先月号参照)で、広告取引通貨であるNielsenのデモグラ・レーティングに頼らない「独自のセグメントデータ」で広告取引をするテレビ局の指針が増え、今年も継続・増加する傾向にある。すでにNBCUは「Non-Nielsen」で販売する在庫を昨年比「倍増」させて約1,100億円枠(約10億ドル)を用意したと発表した。
NBCU等のチャンネル局が提案する「ギャランティード」販売は、オンライン広告枠の取引と似たようなセグメントデータでの取引ができる。例えば・・・
続きはMAD MANレポートVol.28にて
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