最近注目されはじめているゼロパーティデータ、なんとなく、同意を得たファーストパーティデータ、みたいな解釈だけが広がってモヤっとしているので、ブログを書いてみます。
なぜ、モヤっとするのか。僕(というかBICP)は、ゼロパーティデータという概念について、ブランドづくりにおいても貴重な資源となる考え方だと思っていて。これに対して、ファーストパーティデータを勝手に使えなくなった、その対策として捉えられていることが多いなあ、なんて。これだと、ブランドの資源ではなく、ただのデジタルマーケの延長でしか捉えられない。それがモヤっとの起点。
片方で、ブランドの目線でも、ゼロパーティデータの可能性について”デジタル側で起きている新しいトレンド”レベルの認識で、まだピンときていない方も多いんじゃないかなあ、とか。
そもそも、ゼロパーティデータってなんでしたっけ?
詳しくは、BICP DATAのブログ もあわせて読んでいただきたいのですが、一般的には2018年にフォレスターリサーチから発表されたこの定義で説明されることが多いですね。
”Zero-party data (ZPD) is that which a customer intentionally and proactively shares with a brand. It can include preference center data, purchase intentions, personal context, and how the individual wants the brand to recognize her.”
”ゼロパーティデータ(ZPD)とは、お客様が意欲的かつ自発的にブランドと共有するデータのことです。これには、プリファレンスセンターのデータ、購入意図、個人的なコンテクスト、ブランドに認識してもらいたい自分像などが含まれます。”
これ、読んでいただけるとわかると思いますが、「意欲的」「自発的」っていうところがポイント。ファーストパーティデータに後付けで同意をください、のデータとは全く性質が異なるものなのです。
また、「ブランドに認識してもらいたい自分像」これ、すごいですね。もう、僕はこの定義にビビッときちゃっているのです。ブランドは顧客の頭の中にある、という概念にも通じて、さらに興味深い。
つまり、ゼロパーティデータとは、ブランドと顧客の間に信頼関係が成り立っていることが前提でやり取りされるデータ、のことなのです。ポストクッキー、サードパーティデータが使えなくなる時代の、代替手段という小手先の認識は一回とっぱらったほうが良いかなあと。前提が違う。
サードパーティデータは、数は多いが関係性の薄い、シャバシャバなデータ(はっきり言ってしまったw)。
ゼロパーティデータは、数は少ないが信頼関係でつながれた、ミツなデータ(概念が思いっきり真逆)。
どちらがブランドにとって、顧客にとって、ハッピーでしょうか?そして、前提となるブランドと顧客の信頼関係ってどこから生まれるのでしょうか?
答えは、データ云々の手前、広告やコミュニケーションでもなく、”ブランドの真実の瞬間” にあります。
真実の瞬間というのは、顧客体験の起点から完了まではもちろん、顧客体験を生み出す手前のバリューチェーン、もっというと、企業のあり方そのものまでが対象になります。ジェネレーションZが、企業の社会課題に対する姿勢を観察している、という話はよく聞きますが、これもそう。嘘をつけない時代の、企業やブランドの真実性のことです。
企業の理念・ブランドのパーパスと言われるものが、掛け声だけでなく、真実性を持ってバリューチェーンに染みわたっているか。
その上で、信頼関係を前提に提供されたデータを、企業が何を目的に、どのように使うか、に期待されている、ということですね。
この概念を、ずーっと前から実践しているのがDNVB=Digitally Native Vertical Brandといわれるブランドたちです(あえてD2Cとは言わないw)。
Allbirdsは本気でカーボンオフセットに取り組んでいるし(このムービー好き)、Warby Parkerは眼科医療やメガネがいき渡らない後進国の人にまで、見える権利を届けたいと真剣に考えている。EVERLANEは仕入れから物流から価格まで、徹底した透明性の担保にコミットしている。データ云々の前に、こういった企業の真実性から信頼が生まれ、繋がり、顧客は「意図的」に「自発的に」データを提供する。
BICPでは、DNVB型のブランドと顧客の繋がり方を、ファネルではなく、パイプ、と呼んでいるんですけど、説明したように、高次の理念・パーパスとそれを実践するリーダーシップを持つブランドと顧客の間に、信頼とデータというパイプができます。DNVBとは、信頼を前提として預かったゼロパーティデータをもとに、日々プロダクトやサービスを磨き、さらに信頼を深め、成長するブランドのあり方なのです。
僕もいま、BICPと掛け持ちで、IDOM CaaS Technologyというスタートアップ企業のCMOをしています。この会社は、クルマのサブスクリプションサービスであるNORELなど所有に縛られない新しいクルマの楽しみ方を提案し続けるCaaS(Car as a Service)の会社なんですが、日々、コンシェルジュデスクでのお客様との会話をプロダクトやサービス、コミュニケーションにフィードバックしまくっています(結構すごいスピード感でやってるw)。バリューチェーン全体をPMF(プロダクト・マーケット・フィット)の視点で磨き続けるスタートアップなステージにおいて、例えばコールセンターでの会話録などは、プロダクト・サービスの開発や改善を通じて、めちゃくちゃお客様に還元できるゼロパーティデータの塊なのです。
デジタル時代とは、ブランドと顧客が繋がり続ける時代です。その、繋がりを支える道具として、テクノロジーやデータが存在します。ゼロパーティデータが面白いのは、例えば特徴的なお客様の行動を発見した時に、そこに定性的な背景や、意味づけをできる可能性があるところです。ここからインサイトを導き、プロダクトやサービスに新しい価値を乗せて届けていくことができる。これがさらに、新しい真実の瞬間を生む、という循環なのかなあと(スタートアップに限らず、大手の企業、ブランドにとってもこのDNVB的循環モデルからの学びは大いにあるなあと思っています)。
ゼロパーティデータを、定量ではなく、一人ひとりのお客様と繋がるデータ、そして、n=1からの定性的な視点で捉えるとマーケティングとしての可能性も大きく広がります。これが、データでセグメントし、ターゲティングしがちなデジマ起点との大きな違い。
ちなみに、パイプとしての信頼あるデータ=ゼロパーティデータを、いちブランドの目線で見たときに、この対局にあるのがプラットフォーマーのデータです。AmazonやWalmartも、徹底的な顧客利便性という価値で信頼を得て、プラットフォーマーとしてデータを預かっていますよね。そう考えると、ブランドには、プラットフォーマーのID経済圏でビジネスをする、という選択肢もあるわけです。自社のIDで太く繋がるか、関係は薄いが外部の信頼あるデータ経済圏の中で広くビジネスをおこなうか。
念の為、どちらが正解ということではなく、それぞれがブランドからみたときに、濃度や規模の異なる経済圏であることを理解したうえで、自社のビジネスを考える必要があるのだと思います。従来に増して、データの捉え方と経済圏の選択は密接になってきたなあと僕は思っていて、これが面白い(そういう目線だと、Amazonや楽天などの経済圏の中で真剣にビジネスを立ち上げていく意味も、片方で大きくなっていくと思います)。
整理してみると。
・ゼロパーティデータを、単なる同意を得たファーストパーティデータ、で捉えると、その本質を見失いそう。
・ゼロパーティデータは、ブランドと顧客の間に信頼関係が成り立っていることを前提に、やりとりされるデータ。
・信頼は、真実の瞬間づくりからはじまる。理念・パーパスが言葉だけでなく、真実性をもってバリューチェーンに染み渡っているか。
・DNVBなどスタートアップは、ゼロパーティデータを顧客体験にフィードバックしやすい。それが新しい真実の瞬間を生み出していく。ここに学びがありそう。
・データの捉え方と、経済圏の選択はセットになってきた。自社IDの経済圏か、プラットフォームIDの経済圏か。
このように、ゼロパーティデータを、ポストクッキー問題の代替手段としてではなく、ブランドと顧客の繋がりの太さ、自社経済圏での価値創造の目線で解釈すると、意味が広がってきそうですよね。
最後に宣伝。
BICPグループの特徴は、ブランドの理念から価値設計、市場戦略、顧客体験設計までサポートするBICPと、プライバシー重視時代のポリシー整備、ガバナンス体制づくり、基盤構築、ゼロパーティデータ強化をサポートするBICP DATAが、それぞれの特徴を連携させてクライアント支援をしているところ。意外とこの2つをシームレスに連携できている会社ってないんじゃないかなと思っていて(自画自賛ごめんなさいw)。この特徴が連携する意味、が、今回のブログで少しでも伝わっていたら嬉しいなあと。
と、いうことで、ブランドからみた、ゼロパーティデータの意味について、考えてみました。
僕たちも、日々概念を解釈し、トライしています。ご興味ある方、ぜひ、ディスカッションしましょう!お気軽にお声がけください!