本年1月、BICPは米国市場における生活者理解、社会経済の動向、最先端の技術やビジネスの観察・分析などをもとに、日本企業の支援をおこなう目的でニューヨークオフィスを開設しました。そのサービスの一つとして、日本企業の米国進出支援のサービスをニューヨークに本社を置くActus Consulting Group(以下、アクタス)との協業で開始しました。
今回は、アクタスの鈴木CEO(以下、敬称略)とBICPで米国進出支援を担当する森国で、両社が米国進出支援サービスに至った経緯や米国市場に進出する上で日本企業が取り組まなければならないポイントや進出の成功事例を前編、後編の2回に分けてお届けします。
前編では、アクタス創業の経緯とBICPが米国進出支援サービスを開始したきっかけをお聞きすます。
ニューヨーク在住31年のアクタス鈴木さんと日本しか住んだことがないBICP森国。
やっぱりニューヨーカーはシュッとしてはる。
鈴木さんがアメリカに行かれたきっかけ
森国:今日はお時間いただきありがとうございます。
鈴木:こちらこそありがとうございます。
森国:まず最初に鈴木さんがアメリカに行かれたきっかけをお聞かせいただいても良いですか?いつも仕事の話なので、実はこのお話、過去にお聞きしたことなかったですね!(笑)
鈴木:確かに私がアメリカに行くきっかけは話したことなかったですね!
僕らの時代はやっぱりアメリカに対する憧れが強くて、アメリカ文化に傾倒していたこともあり、学生時代からアメリカに留学したかったんです。でも親からは、アメリカに行きたいなら社会に出て、自分で稼いで行きなさい、と言われ。(笑)
その後、留学しないまま大学を卒業し、某百貨店系列のディベロッパーに就職したのですが、あるとき知人を通じて、ニューヨークでアムネットという旅行会社を営む中川を紹介してもらう機会がありました。
当時のアムネットは社員2~3名の小さな旅行会社でしたが、「アメリカで働きたいならうちに来れば?」と中川から誘いを受け、このチャンスを逃すと二度とアメリカに行く機会はない、と思って1990年、24歳のときに会社を辞めて日本を飛び出し、中川のもとで働くことになりました。
森国:大企業を辞めて、アメリカで起業したばかりの社員2〜3名の旅行社に転職するとは、なかなかなチャレンジですね!
鈴木:当時は、何かを成し遂げたい、とか、アメリカンドリームを実現させたい、とかそんな大それたことを考えていた訳ではないのですが、気がつくと30年以上、アメリカにいてしまったという感じですね!(笑)
森国:アムネットの社員が2〜3名だったということはほぼ創業メンバーですね。その後、どうなったんですか?
鈴木:当初は、日本の団体旅行のパッケージツアーのオプション手配などをやっていたのですが、アメリカ在住の日本人が増えていたので在米日本人へのチケット販売を開始。ビジネスも順調に伸び、全米に4支店まで立ち上げるまで成長しました。
ところが、2001年9月11日、アメリカ同時多発テロが発生。旅行ビジネスは一気に縮小しました。
旅行業は景気の左右が大きいことから、以前より中川とは、旅行業以外にもビジネスの軸足を広げないとダメだね、と会話はしていたものの、日々の業務で忙しく、なかなか次の事業を起こすまで至ってなかったのです。
そこに911が発生し、いよいよ旅行業だけでは厳しいとなり、以前より注目していた人材サービス業を立ち上げることになりました。それがアクタスの設立のきっかけです。
アムネットのメンバーと(中川さん:最後列右から2番目、鈴木さん:最前列中央)
米国進出支援サービスのきっかけ
森国:現在のアクタスは人材派遣業、人事コンサル業、米国進出支援と3つの事業がありますが、人材派遣サービスから米国進出サービスまで事業拡大された経緯を聞かせてください。
鈴木:アクタスを設立したのは2001年ですが、その後、人材派遣ビジネスも順調に成長し、2007年にLA支店を設立するまでになりました。ところが今度は、2008年にリーマンショックが発生。人材サービス市場は一瞬で消えてしまいました。
幸いにも1年後に景気も回復し、人材サービス市場も回復するのですが、やはり人材派遣以外の新規ビジネスを起こす必要性を感じました。
ちょうどその頃、アメリカで開催されていた展示会のJETROのジャパンパビリオンへの人材派遣の業務を請け負うことになりました。そこで体験したものは、日本企業の商品には注目が集まるものの、実際のオーダーにつながらない実態でした。
森国:商品が良くても、現地販社がない故に、決済や商品調達に小売側が不安を感じるのですね?
鈴木:その通りです。小売バイヤーとしては、いくら商品が良くてもビジネスインフラがないと発注するには至らないのです。
例えば、発注のたびに海外送金する、米国在庫がないので発注後に船便で輸送してもらう、カスタマーサポートサービスがない、などの状態では小売側が手間やリスクを背負うことになります。このようなビジネス条件では、いくら商品が良くともバイヤーは発注してくれません。
ただ、海外に進出したことのない企業が、いきなりアメリカに販売会社を設立することは、資金面で大きなリスクを背負うことになり、多くの中小企業にとって難しいチャレンジになります。
そこで、アメリカに販売会社に設立せずとも、販売会社が行う業務を全て代行で行うサービスをご提供すれば、米国市場の開拓を検討している中小企業のサポートになるのではないかと思い、2010年に米国進出サポートのサービスを開始することになりました。
Zoomでの対談の様子
BICPが米国進出支援サービスを考えたきっかけ
森国:お困りごとを見極め、それを解決するためにサービスを開発されたことが本当に素晴らしいと思います。
BICPの海外進出支援は、自分たちが持つマーケティングのメソッドを大企業だけでなく、企業の規模に関わらず、様々な企業さんにご提供することで、もっと世の中に貢献できるのではないかと考えたことがきっかけです。
私は、2019年9月のBICP関西オフィス立ち上げのタイミングでBICPに入社したのですが、BICP入社前から、中小企業が多い関西市場だからこそ、大企業向けのサービスとは異なる形のサービスができないか、漠然と考えていました。
また、日本には、細部に至るまでとことん使い手のことを考えている気遣いが素晴らしい商品が多くあると思っています。ただ、残念なことに、そんな商品が、日本国内だけに留まっていることが多いことが課題だと考えていました。
人口減少により、日本市場は縮小し続けます。世界に飛び出せば多くの人の心を捉えるであろう商品が、日本だけに留まり続けることはもったいないですし、世界で戦える力のある企業がどんどん世界に飛び出していかないと、その企業だけでなく、日本の国としてもジリ貧になってしまいます。
そんな課題意識をBICPのメンバーと議論を重ねていたところ、ニューヨークオフィスの代表を務める榮枝から御社をご紹介いただき、今回の米国進出支援サービスの協業に繋がりました。
BICPの合宿で新規サービスが話し合われ、海外進出サポートも検討テーマの一つだった。
鈴木:実際、私たちがサポートしている企業さんも、従来は国内市場のみに商品を販売されていたのですが、更なる成長を求めて世界に飛び出そうと決断され、弊社にご相談いただいたケースばかりです。
森国:私は前職まで複数の事業会社で海外マーケティングの仕事を長年担当していたのですが、そこで自国市場のマーケティングとは異なる難しさに何度も直面してきました。
日本とは価値観もライフスタイルも宗教も異なるので、日本人にとっての「当たり前のモノサシ」で市場を見ない、ということが海外市場を理解する大前提だと思っています。
鈴木:まさしくそこが重要なポイントだと思っています。
みなさん、日本市場で一定の成功を収められて米国進出を検討されていますので、自分たちは良い商品を作っていて、お客さんにも喜ばれている、という自負をお持ちです。
実際にアメリカで販売されている商品と比較すると自分たちの商品の方がはるかに品質が良い、これは行ける!と思われるケースがほとんどです。
でも、日本で販売されているものをそのままアメリカに持ち込んでも、成功することは非常に難しいのです。
「NYアクタス社の鈴木さんに聞いてみた。米国進出のコツ。」の前編はここまでとなります。後編では、米国市場に進出する上で日本企業が取り組まなければならないポイントや進出の成功事例などをお聞きします。